「あー、付き合ってたな」
加賀屋はその過去のことをなんとも思っていないのか、ヘラヘラと笑いながらそう答える。
「懐かしい話ね」
「あれって、どうして二人は別れたの?」
今なら時効でしょ、と僕は世間話のように問いかけた。加賀屋は思い出すように視線を上に向けて、それから果凛さんの方を見た。
「喧嘩別れだよ」
「喧嘩?」
「……あんま覚えてないけどなー」
彼は上手く僕の質問を交わした。本当に覚えていないのか、それすら分からない。単純そうに見えて、そうではない。僕は苦手だと感じた。
「私は覚えてるけど?」
ふふ、と口元に手を持っていき、上品に笑う果凛さんの視線は、しっかりと加賀屋を見ていた。口元に笑みを浮かべながら加賀屋もまた果凛さんを見つめた。
「じゃあ今度昔話をしに二人で飲みに行くか?」
「……そうしましょう。私も久しぶりに話したいと思っていたの」
チラリ、と果凛さんは僕を見る。探ってくれるということだろう。僕はこく、とバレない程度に頷いた。果凛さんはまた加賀屋に視線を戻して微笑んだ。
僕ら三人の中に、他の人が混じってくる。そうしてわちゃわちゃとした同窓会は終わった。僕はこれ以上嘘がつきたくなかったから二次会は行かなかった。
そのまままっすぐあのカフェに行き、やっとほっと一息つくとぐったりとしてしまった。
「お疲れのようですね」
「はい、とても」
未城さんの顔を見たら、なんだか少し癒された。やっぱりここが一番落ち着く。
「今日、同窓会でしたよね?」
「はい、大変でした」
聞かせてください、と未城さんは優しく言って、僕にカプチーノを出してくれた。そして向かいの席に座る。
「ちなみに、バレましたか?」
「いいえ、上手くやりました」
さすがです、とぱちぱちと小さな拍手をする。僕がバレなかったのは僕にそんなに興味を示す人がいなかったからなのだが、まぁそれは言わないでおこう。
「果凛さんがうまく過去のことを調べてくれるみたいですよ」
「まぁ他人が調べるには限界がありますからね」
未城さんはマスターに呼ばれてそちらに行ってしまった。そして、仕事をしている。僕はただこの思い出の席でゆっくりカプチーノを飲んだ。
―――ねぇ、君
ゆっくりしていたら、目の前の空いた席から、由那さんの声が聞こえた気がした。
そういえば僕は由那さんの名前を知ったけれど、記憶の中の彼女は僕の名前も知らないんだった。
視線を上げて、向かいの席を見る。なんとなく、頬杖をついた彼女が見えた気がした。
「やっとこっち見てくれた」
あぁ、そんな満足気に笑わないでよ。僕は君を救えたかったんだから。
「ねぇねぇ、久しぶりに私とお話してくれる?」
「……もちろん」
やった、と笑う彼女は、あの頃から変わらない制服を着ていた。
彼女はずっと話し続けた。いつの話だか分からない、なんてことない日常の話とか、今日は天気が悪くて頭が痛かったとか。彼女の時間は、ずっと止まっている。
「……あのね、花那と果凛のこと、ありがとう」
話が一息ついた時、彼女が突然そう呟いた。照れくさそうな笑顔で。
「僕は何もしてない」
「うぅん、ふたりと、君がここで話してるの、見てて楽しい。だから、ありがとう」
また笑った。僕はなんて答えればいいのか分からず、黙る。でもまた君に会えてよかったとそう言おうと口を開いた時、パッと目が覚めた。
「お疲れだったんですね、少しの間眠っていましたよ」
目の前の席に座っているのは由那さんではなく、未城さん。仕事が落ち着いたのか、カフェラテを飲んでいた。
僕は、現実を実感し目が熱くなった。
また、君に会いたい。
そんなことを言ってももう君はこの世にいないのに。
加賀屋はその過去のことをなんとも思っていないのか、ヘラヘラと笑いながらそう答える。
「懐かしい話ね」
「あれって、どうして二人は別れたの?」
今なら時効でしょ、と僕は世間話のように問いかけた。加賀屋は思い出すように視線を上に向けて、それから果凛さんの方を見た。
「喧嘩別れだよ」
「喧嘩?」
「……あんま覚えてないけどなー」
彼は上手く僕の質問を交わした。本当に覚えていないのか、それすら分からない。単純そうに見えて、そうではない。僕は苦手だと感じた。
「私は覚えてるけど?」
ふふ、と口元に手を持っていき、上品に笑う果凛さんの視線は、しっかりと加賀屋を見ていた。口元に笑みを浮かべながら加賀屋もまた果凛さんを見つめた。
「じゃあ今度昔話をしに二人で飲みに行くか?」
「……そうしましょう。私も久しぶりに話したいと思っていたの」
チラリ、と果凛さんは僕を見る。探ってくれるということだろう。僕はこく、とバレない程度に頷いた。果凛さんはまた加賀屋に視線を戻して微笑んだ。
僕ら三人の中に、他の人が混じってくる。そうしてわちゃわちゃとした同窓会は終わった。僕はこれ以上嘘がつきたくなかったから二次会は行かなかった。
そのまままっすぐあのカフェに行き、やっとほっと一息つくとぐったりとしてしまった。
「お疲れのようですね」
「はい、とても」
未城さんの顔を見たら、なんだか少し癒された。やっぱりここが一番落ち着く。
「今日、同窓会でしたよね?」
「はい、大変でした」
聞かせてください、と未城さんは優しく言って、僕にカプチーノを出してくれた。そして向かいの席に座る。
「ちなみに、バレましたか?」
「いいえ、上手くやりました」
さすがです、とぱちぱちと小さな拍手をする。僕がバレなかったのは僕にそんなに興味を示す人がいなかったからなのだが、まぁそれは言わないでおこう。
「果凛さんがうまく過去のことを調べてくれるみたいですよ」
「まぁ他人が調べるには限界がありますからね」
未城さんはマスターに呼ばれてそちらに行ってしまった。そして、仕事をしている。僕はただこの思い出の席でゆっくりカプチーノを飲んだ。
―――ねぇ、君
ゆっくりしていたら、目の前の空いた席から、由那さんの声が聞こえた気がした。
そういえば僕は由那さんの名前を知ったけれど、記憶の中の彼女は僕の名前も知らないんだった。
視線を上げて、向かいの席を見る。なんとなく、頬杖をついた彼女が見えた気がした。
「やっとこっち見てくれた」
あぁ、そんな満足気に笑わないでよ。僕は君を救えたかったんだから。
「ねぇねぇ、久しぶりに私とお話してくれる?」
「……もちろん」
やった、と笑う彼女は、あの頃から変わらない制服を着ていた。
彼女はずっと話し続けた。いつの話だか分からない、なんてことない日常の話とか、今日は天気が悪くて頭が痛かったとか。彼女の時間は、ずっと止まっている。
「……あのね、花那と果凛のこと、ありがとう」
話が一息ついた時、彼女が突然そう呟いた。照れくさそうな笑顔で。
「僕は何もしてない」
「うぅん、ふたりと、君がここで話してるの、見てて楽しい。だから、ありがとう」
また笑った。僕はなんて答えればいいのか分からず、黙る。でもまた君に会えてよかったとそう言おうと口を開いた時、パッと目が覚めた。
「お疲れだったんですね、少しの間眠っていましたよ」
目の前の席に座っているのは由那さんではなく、未城さん。仕事が落ち着いたのか、カフェラテを飲んでいた。
僕は、現実を実感し目が熱くなった。
また、君に会いたい。
そんなことを言ってももう君はこの世にいないのに。