結局僕は、同窓会の日、休みを取って果凛さんと待ち合わせをした。駅前の居酒屋の前、何となくソワソワとした気持ちで待つ。
ちゃんとした同窓会ではなく、知っている人達で集まろう、という同窓会らしいから、恩師などは来ないようだった。恩師が来たりしたらバレてしまうだろうし、ほんの少し安心した。
「ミトセさん、お待たせ」
「いえ、時間ピッタリですよ」
今日の果凛さんは、いつもより清楚な服装をしていた。レンタル彼女の時は肩が出るトップスやスリットの入ったスカートを履いたりしていたが、ノースリーブのトップスに薄手のカーディガンを着たりと露出が少ない。
「メンバーは十数人、本当に久しぶりの人が多いからそんなに緊張することないわ。貴方は私が直接声をかけて突然来ることになったってことにしてあるから」
「……本当にバレませんかね」
「ミトセさん次第じゃない?」
コツ、コツ、とハイヒールで歩く彼女の姿は姿勢が良くてとても整っている。
僕はその半歩後ろを歩いた。隣を歩くより、少し後ろが僕にはお似合いだ。
しばらく一緒に歩いていると、とある店の前で果凛さんの足が止まる。居酒屋、のようだ。
「昔の同級生がやってる店らしいの。だから今日は貸切」
「なるほど。その人も含めて同窓会ってことですね」
「そう。……気持ちの準備は出来た?」
僕の方を見て、果凛さんは問いかける。準備は出来ていないが、ここまで来て引き返す訳にも行かず、頷いた。
果凛さんがドアに手をかけ、引いて中に入る。一緒に店に入った時、賑やかな声が聞こえた。
「おー! 眞鍋!」
「久しぶりー」
僕は果凛さんの後ろを歩いて人の多い所へと行く。僕を見て、みんな不思議そうな顔をしていた。
「えーとごめん! お前名前なんだっけ」
突然話しかけられ、固まる。だがここで答えないとさらに怪しまれるから、僕は問いかけてきた彼の方を見てできるだけ笑顔を作った。
「田中だよ、そういうお前こそなんだっけ?」
できるだけ自然にそう言うと、彼は、あぁ!と思い出す素振りをする。
人間の思い込みとは恐ろしいものだと僕はこの時本気で思った。
「田中くん忘れたの? コイツは加賀屋晶だよ」
果凛さんがすかさずフォローに入ってくれる。僕も思い出す素振りをして見せて、久しぶり、と笑った。果凛さんが僕の服を見えないように少し引いた。加賀屋晶、コイツが果凛さんの元彼らしい。
「眞鍋と田中って仲良かったっけ? なんで今日一緒に来たんだ?」
「私たち職場が近くて偶然再会したの。それで同窓会の話したら田中くんが久しぶりにみんなと会いたいって言うからさ」
さすがレンタル彼女、嘘に聞こえない嘘を平然とつく。僕もそれに合わせて相槌をうった。
「へぇ、付き合ってるとかじゃないのか」
「そんなわけないでしょ。田中くんには彼女いるし」
僕は打ち合わせにない発言に戸惑うが、まぁ、と一言呟き、出された烏龍茶を飲む。
「眞鍋は、彼氏いないの?」
そう問いかけた加賀屋の言葉に、僕は驚いた。自分が酷い別れ方をした彼女に向かって、どうしてそんなことを聞くのか。
果凛さんもまた、驚き表情を固めていた。
「その様子じゃないないんだろ? せっかく綺麗なのにな」
ほかの人たちが懐かしみ楽しそうに話しをしている中、僕ら三人の場所には楽しさはなかった。嘘をついた僕と、それを隠す果凛さん、何も知らない最低な加賀屋、そりゃ、楽しいわけが無い。
「綺麗? ありがとう。そう言って貰えると嬉しいわ」
固まった空気の後、果凛さんはその得意な営業スマイルで乗り切った。詰まった息がしやすくなって、僕もほっとした。
「あぁ、せっかくここで会えたんだし、連絡先交換しない? また三人で会いたいし」
果凛さんがスマホを差し出すと、加賀屋はあっさりと連絡先を交換した。昔自分がやったことを覚えていないのか、と僕はほんの少しモヤっとする。
「そう言えば二人って昔付き合ってたよね」
だから僕は、そう言ってやった。
果凛さんは僕をほんの一瞬睨んだが、由那さんのためだと飲み込んでくれたようで、何も言わなかった。
ちゃんとした同窓会ではなく、知っている人達で集まろう、という同窓会らしいから、恩師などは来ないようだった。恩師が来たりしたらバレてしまうだろうし、ほんの少し安心した。
「ミトセさん、お待たせ」
「いえ、時間ピッタリですよ」
今日の果凛さんは、いつもより清楚な服装をしていた。レンタル彼女の時は肩が出るトップスやスリットの入ったスカートを履いたりしていたが、ノースリーブのトップスに薄手のカーディガンを着たりと露出が少ない。
「メンバーは十数人、本当に久しぶりの人が多いからそんなに緊張することないわ。貴方は私が直接声をかけて突然来ることになったってことにしてあるから」
「……本当にバレませんかね」
「ミトセさん次第じゃない?」
コツ、コツ、とハイヒールで歩く彼女の姿は姿勢が良くてとても整っている。
僕はその半歩後ろを歩いた。隣を歩くより、少し後ろが僕にはお似合いだ。
しばらく一緒に歩いていると、とある店の前で果凛さんの足が止まる。居酒屋、のようだ。
「昔の同級生がやってる店らしいの。だから今日は貸切」
「なるほど。その人も含めて同窓会ってことですね」
「そう。……気持ちの準備は出来た?」
僕の方を見て、果凛さんは問いかける。準備は出来ていないが、ここまで来て引き返す訳にも行かず、頷いた。
果凛さんがドアに手をかけ、引いて中に入る。一緒に店に入った時、賑やかな声が聞こえた。
「おー! 眞鍋!」
「久しぶりー」
僕は果凛さんの後ろを歩いて人の多い所へと行く。僕を見て、みんな不思議そうな顔をしていた。
「えーとごめん! お前名前なんだっけ」
突然話しかけられ、固まる。だがここで答えないとさらに怪しまれるから、僕は問いかけてきた彼の方を見てできるだけ笑顔を作った。
「田中だよ、そういうお前こそなんだっけ?」
できるだけ自然にそう言うと、彼は、あぁ!と思い出す素振りをする。
人間の思い込みとは恐ろしいものだと僕はこの時本気で思った。
「田中くん忘れたの? コイツは加賀屋晶だよ」
果凛さんがすかさずフォローに入ってくれる。僕も思い出す素振りをして見せて、久しぶり、と笑った。果凛さんが僕の服を見えないように少し引いた。加賀屋晶、コイツが果凛さんの元彼らしい。
「眞鍋と田中って仲良かったっけ? なんで今日一緒に来たんだ?」
「私たち職場が近くて偶然再会したの。それで同窓会の話したら田中くんが久しぶりにみんなと会いたいって言うからさ」
さすがレンタル彼女、嘘に聞こえない嘘を平然とつく。僕もそれに合わせて相槌をうった。
「へぇ、付き合ってるとかじゃないのか」
「そんなわけないでしょ。田中くんには彼女いるし」
僕は打ち合わせにない発言に戸惑うが、まぁ、と一言呟き、出された烏龍茶を飲む。
「眞鍋は、彼氏いないの?」
そう問いかけた加賀屋の言葉に、僕は驚いた。自分が酷い別れ方をした彼女に向かって、どうしてそんなことを聞くのか。
果凛さんもまた、驚き表情を固めていた。
「その様子じゃないないんだろ? せっかく綺麗なのにな」
ほかの人たちが懐かしみ楽しそうに話しをしている中、僕ら三人の場所には楽しさはなかった。嘘をついた僕と、それを隠す果凛さん、何も知らない最低な加賀屋、そりゃ、楽しいわけが無い。
「綺麗? ありがとう。そう言って貰えると嬉しいわ」
固まった空気の後、果凛さんはその得意な営業スマイルで乗り切った。詰まった息がしやすくなって、僕もほっとした。
「あぁ、せっかくここで会えたんだし、連絡先交換しない? また三人で会いたいし」
果凛さんがスマホを差し出すと、加賀屋はあっさりと連絡先を交換した。昔自分がやったことを覚えていないのか、と僕はほんの少しモヤっとする。
「そう言えば二人って昔付き合ってたよね」
だから僕は、そう言ってやった。
果凛さんは僕をほんの一瞬睨んだが、由那さんのためだと飲み込んでくれたようで、何も言わなかった。