果凛さんから話を聞いて数日。あれから特に進展はなかった。だが突然僕と未城さんに果凛さんから連絡が来て、待ち合わせは未城さんの働くあのカフェ。果凛さんにとっては、初めての場所だろう。
「同窓会の話ですかね」
「恐らくそうでしょう。……なんで僕が知らない人の中に……」
「水戸瀬さん、人嫌いですよね」
くすくす、と笑いながらラテアートの描かれたカプチーノを僕の席に出す未城さんはなんだか楽しそうだ。
「人が嫌いなのではなく、苦手なんです。仕事で関わるのだから、プライベートは控えめでもいいと思いませんか?」
「まぁ、そういう考えもありますよね」
夕日の落ちる時間、人の少ないカフェはかなり居心地がいい。閉店間近になったから、未城さんはまた僕の向かいの席に座ってカフェオレを飲み始めた。
「遅くなってごめん、仕事が長引いてたの」
「大丈夫ですよ。なにか飲みます?」
「じゃあ、カフェモカにする」
果凛さんは未城さんが近くのテーブルから移動させていた椅子に座り、メニューを見てから迷わず注文をした。未城さんはそれをマスターに伝え、入れてもらったものを果凛さんの目の前に置いた。
「ありがとう、花那さん」
「いいえ。甘いのがお好きなんですね?」
「苦いのは、あまり飲まないから」
カフェモカを一口飲んで、うん、美味しい、と果凛さんは呟いた。それからバッグからスマホを出して、メールの画面を付けたまま、机の上に置く。そこには、同窓会のご案内、と書かれていた。
「日にちが決まったの。参加するメンバーも何となくわかった。ちゃんといるよ、私の元彼」
はぁ、と嫌そうなため息。まぁ聞いた話だけでも嫌な奴だったのだろうと思うし、心中は察する。
「あの、本当に僕を連れていくつもりですか?」
「えぇ」
「でもすぐバレると思うんですけど……」
未城さんはカフェオレを飲みながら、僕らの話を聞いていた。
「花那さんは行けないでしょ。それに、アイツと二人きりで由那の話とか私にはできない」
「未城さんの方が行けると思うんですが……」
困りながらそう言うと、未城さんはカップを置いて、いいえ、と口を開いた。
「死んだ人と同じ顔の人が同窓会なんて行ったら空気が凍ります。今回私はお役に立てそうにないです」
未城さんの言葉に確かに、と納得してしまったから何も言い返せない。ラテアートをぐるぐるに混ぜて、僕は少し黙った。
「そんなに嫌なの?」
「嫌に決まってます。バレたら変な人みたいになるじゃないですか」
「普通にしてればバレないと思うよ。同窓会なんてみんな久しぶりに会うんだし、高校時代の友人なんてそんなに覚えてないものでしょ」
なんだか少し楽観的過ぎないか、と思いつつそれを言うことは出来ない。僕の弱いところだ。
「例えば、名前を聞かれたりしたら?」
「そうね……田中だけど、とか言っとけばいいんじゃない?」
「ちょっと雑な気がするんですが……」
僕らのやり取りで、未城さんはくす、と笑った。笑い事ではない。
「バレた時はどうすればいいんですか」
「……あんまり使いたくない手だけど、私の彼氏ってことにすればまぁ追い出されることはないと思う」
そう言った果凛さんはまぁ嫌そうな顔をしていた。僕だってその手はあまり使いたくない。果凛さんにも失礼だと思うから。
そうしてしばらく三人で同窓会の作戦を考え、全員のカップの中身が無くなった後、解散になった。
帰路、スマホの通知音がなり見てみると、未城さんから、頑張ってください、と応援のメッセージ。
ため息は、夜空に吸い込まれて消えた。
「同窓会の話ですかね」
「恐らくそうでしょう。……なんで僕が知らない人の中に……」
「水戸瀬さん、人嫌いですよね」
くすくす、と笑いながらラテアートの描かれたカプチーノを僕の席に出す未城さんはなんだか楽しそうだ。
「人が嫌いなのではなく、苦手なんです。仕事で関わるのだから、プライベートは控えめでもいいと思いませんか?」
「まぁ、そういう考えもありますよね」
夕日の落ちる時間、人の少ないカフェはかなり居心地がいい。閉店間近になったから、未城さんはまた僕の向かいの席に座ってカフェオレを飲み始めた。
「遅くなってごめん、仕事が長引いてたの」
「大丈夫ですよ。なにか飲みます?」
「じゃあ、カフェモカにする」
果凛さんは未城さんが近くのテーブルから移動させていた椅子に座り、メニューを見てから迷わず注文をした。未城さんはそれをマスターに伝え、入れてもらったものを果凛さんの目の前に置いた。
「ありがとう、花那さん」
「いいえ。甘いのがお好きなんですね?」
「苦いのは、あまり飲まないから」
カフェモカを一口飲んで、うん、美味しい、と果凛さんは呟いた。それからバッグからスマホを出して、メールの画面を付けたまま、机の上に置く。そこには、同窓会のご案内、と書かれていた。
「日にちが決まったの。参加するメンバーも何となくわかった。ちゃんといるよ、私の元彼」
はぁ、と嫌そうなため息。まぁ聞いた話だけでも嫌な奴だったのだろうと思うし、心中は察する。
「あの、本当に僕を連れていくつもりですか?」
「えぇ」
「でもすぐバレると思うんですけど……」
未城さんはカフェオレを飲みながら、僕らの話を聞いていた。
「花那さんは行けないでしょ。それに、アイツと二人きりで由那の話とか私にはできない」
「未城さんの方が行けると思うんですが……」
困りながらそう言うと、未城さんはカップを置いて、いいえ、と口を開いた。
「死んだ人と同じ顔の人が同窓会なんて行ったら空気が凍ります。今回私はお役に立てそうにないです」
未城さんの言葉に確かに、と納得してしまったから何も言い返せない。ラテアートをぐるぐるに混ぜて、僕は少し黙った。
「そんなに嫌なの?」
「嫌に決まってます。バレたら変な人みたいになるじゃないですか」
「普通にしてればバレないと思うよ。同窓会なんてみんな久しぶりに会うんだし、高校時代の友人なんてそんなに覚えてないものでしょ」
なんだか少し楽観的過ぎないか、と思いつつそれを言うことは出来ない。僕の弱いところだ。
「例えば、名前を聞かれたりしたら?」
「そうね……田中だけど、とか言っとけばいいんじゃない?」
「ちょっと雑な気がするんですが……」
僕らのやり取りで、未城さんはくす、と笑った。笑い事ではない。
「バレた時はどうすればいいんですか」
「……あんまり使いたくない手だけど、私の彼氏ってことにすればまぁ追い出されることはないと思う」
そう言った果凛さんはまぁ嫌そうな顔をしていた。僕だってその手はあまり使いたくない。果凛さんにも失礼だと思うから。
そうしてしばらく三人で同窓会の作戦を考え、全員のカップの中身が無くなった後、解散になった。
帰路、スマホの通知音がなり見てみると、未城さんから、頑張ってください、と応援のメッセージ。
ため息は、夜空に吸い込まれて消えた。