カラン、とドリンクバーで持ってきた飲み物の氷の音が響く。果凛さんの話が終わったあと、本の数秒沈黙が響く時間があった。だから、氷の音がやたらと響いたのだろう。

「私の知ってることはこれが全て」

 彼女の話の中には、僕の知らない由那さんがいた。僕の知ってる由那さんと、ほんの少しズレた由那さん。そのせいで、彼女の話が本当なのか、疑ってしまう僕がいた。

「学校で、そんなことがあったんですね。私もそのことは知りませんでした」
「あのことを知ってるのは私と由那と……元彼だけ」

「由那さんが死ぬ前、それ以外の変わった様子はありましたか?」

 僕は彼女を見ながら問いかける。もう少し、何かあれば、と焦る気持ちが芽生えた。近付いている気はするのに、手は届かない真実。もどかしい。


「……変わった様子は、全くなかった。私には死ぬ直前までいつも通りに見えていたから。由那が由那らしくなかったのは、さっき話した事があった時くらいだし」

 僕と未城さんは二人して口を閉ざし、考えた。それでもまだなにも分からないのだが、必ずこの話の中に、由那さんが死を選んだ原因がある気がしたのだ。


「二人して難しい顔しないでよ。……とにかく、由那が死んだのは私のせいじゃない。そのはずなのよ」


 彼女は少し自信がなさそうにそう言った。やはり、公開は僕と同じようにあるのだろう。
 氷が溶け始めてぬるくなったコーラを僕は一口飲んだ。味が薄い。


「……流れで色々話したけど、花那さんが由那のこと調べるのはわかるけど、ミトセさんはなんなの? 私の記憶では由那から貴方の名前を聞いたことがないんだけど」


 そう言えばまだ僕のことを話していなかった、と彼女からの痛い視線を避けながらため息を着く。


「……僕は、由那さんとカフェで会っていたんです」

 嘘をつく理由もないためそう話すと、彼女は驚いた顔で僕を見つめていた。まさか、由那さんの話に出てきていたカフェの人が僕だと思わなかったのだろう。


「なるほどね……。だから由那のことを調べてたのか……」
「でも、僕は由那さんのことを何も知らなかったので、未城さんに協力してもらっていたんです」

 彼女は納得して、腕を組んで、わかった、と呟いた。

「私も、少しは協力する。できることは少ないけど」
「ありがとうございます。由那のことをよく知る果凛さんが協力してくれるのは力強いです」


 未城さんは嬉しそうにそう言って彼女の手を取った。そして、少し幼く見つめた。由那さんに似ている顔に弱いのか、果凛さんは少しだけ自然な笑みを浮かべていた。


「次はどう調べる予定なの?」

 カラオケから出て、解散目前となった時、彼女にそう問いかけられ、僕と未城さんは顔を見合せた。

「……次に話を聞くとすれば、果凛さんの話に出てきた元彼ですね」
「まぁ、そうなるよね。……連絡先はもう持ってないから、行く気はなかったけど同窓会に顔を出すしかないか……」

 果凛さんはスマホを操作して、同窓会の日程を確認した。そして僕の方を見る。

「ミトセさんも来るよね?」
「え、僕は学校が違うんですけど」

 ぽん、と僕の肩に手を置いて、彼女はにっこりと笑みを浮かべた。

「来るよね?」

 圧のある言葉、僕は断るという選択肢を与えられてなかったようだ。
 頷き、返事をすると、方の手を下ろしてもらえた。

 そして僕らは連絡先を交換し、解散となった。