――流夜と出逢う前の咲桜。
夢。
背筋を伸ばして立っていた。
足元が揺らがないように唇を噛んでいた。
両手はこぶし。目をつむり。
ここに生きていることを赦してもらうために、逃げ出すことは出来なかった。
……私はいつも、そんな夢をみていた。
――流夜と出逢った咲桜。
夢。
誰かが私に向けて手を差し伸べている。
目を閉じた私には見えないはずなのに誰かがそうしていることがわかる。
誰かは辛抱強く、私がこぶしをほどいて目を開けるのを待っている。てのひらを上に向けて私がその手を取るのを。
……そのときを、私も待っている。
夢。
その手を取った。
その瞬間目は開け、まばゆい世界に自分はいた。
軽く見上げた先には、優しくほほ笑む誰か。
怜悧冷徹とも言われていたらしいその人は、穏やかに私を見ていた。
その眼差しをいつまでも見ていたくて。
どんな禁忌にだって挑む覚悟を、決めた。