あの時と同じ様に立つ結城君を見つけた瞬間、どんなつもりでここに来てくれたのかなんてすぐに分かった。きっと連絡があったんだ、橘さんから。そして進展があったから、またあの海へ行こうと思ったんだ。明日へ向かう為に、私に話してくれる為に。そしてまた、あの海に全てを飲み込んでもらう為に……ん?
海に、飲み込んでもらう?
歩きながら、ふと気付いた。そういえば結城君にとっての海とはそういうものだったと。
つまり、結城君にとって海は何かを捨てる場所だって事になる。私を呼んだのは私に話す事があるからだとして、それが海である必要があるのだとすれば、話すのと一緒に何かを捨てようと思ってるって事になる……まさか、私との事全部、手放そうと思ってたりしないよね?
思いついた途端、直接冷たい手で心臓を鷲掴みにされた様な心地がして、その感覚のまま風に潮の香りが混ざり始めた事に気がついた。
海に近づいている。それに連れて、冷え切った心臓が嫌な強さで無理矢理鼓動し始める。
——だって私は結城君を追い詰めた。苦しめた。私が居るから結城君はまた学校に来られなくなった。
橘さんとの事が解決したとしても、私との事はまだ解決していない。だから解決させる為に——全部捨ててしまう為に今、私と海に向かっているのだとしたら——
結城君は今、私との関係をここで終わらせようとしてるんだ——。
どんどん繋がっていった先、知りたく無かった答えに辿り着いてしまった。だって海である必要があるのならそれしか考えられない。もう結城君には私が居なくても橘さんが居るのだし、結城君の抱える傷が癒やされたのなら、もう私なんて必要ないのだから。
それはとても怖いけれど現実的な結論だった。嫌で嫌で、今すぐここから逃げ出したい……でも、結城君の気持ちを察して、行こうと提案したのは私だった。結城君は海に行くつもりで私の所に来てくれた。立ち上がった結城君が向かうのは、どちらにせよ彼にとっての新しい明日なはずだ。その明日に私が居ても居なくても、今、結城君は前を向く為にまたあの海へ行こうとしているのだ。
それを、喜べない私になんてなりたくない。
結城君は結城君のものだ。本来の結城君が帰って来たのなら——それで良い。それで良いのだ。
到着すると、あの日と同じ様に波打ち際に二人で立った。今日は満月だ。月明かりがゆらゆらと波をなぞる様に揺れている。吸い込まれそうな静けさに波の音が響き渡り、まるでこちらを沖へと手招きしている様だった。
隣の結城君を見上げるとじっと海の先を眺めていて、あぁ、あの日と同じだと思った。私には見えない何かを見ている。
……やっぱり、私じゃないんだ。
寂しくなって、切なくなって、思わず呟いていた。
「もう私はいらない?」
その言葉に、ハッと結城君の目が私に向く。あぁ、帰ってきたと感じる私は相変わらず欲張りで——だからもう、手放さないといけない。だって私の存在は、この気持ちは、結城君を追い詰めて、苦しめた。
「ごめんね、私のせいで辛い思いをさせたよね」
そういえば、謝る事も出来ていなかった。あの日からずっと後悔している。この後悔も今、手放さないといけない。謝って、許されて、それで終わり。結城君は私を許すだろうから。
「結城君、元気になった?」
「……うん」
「良かった。じゃあ、もう大丈夫だね」
最後に元気になったと聞けて良かった。今ここで私と居ても大丈夫なら、また結城君は学校に来られる様になっただろうから。これで全て解決だ。
全部、解決……
「…………」
……嫌だ、もう終わりだなんて。
そんなの嫌だ。絶対嫌。
でも、言っちゃダメだ。言ったら結城君を追い詰めてしまうかも。言ったら、言ってしまったから、あんなの事言わなければって……だけどっ、
「本当は、私の隣に居て欲しい……」



