“どうだった? 上手くいった?”
帰ってくると、スマホには穂乃果ちゃんからの連絡が入っていて、それに、“多分、大丈夫だと思う。詳しくは明日話すね”と返信をしてベッドに横になる。
なんだかどっと疲れていた。やり切った達成感はある。でも、上手くいったのかと言われると正直よく分からない。
伝えたい事は全部伝えられたし、橘さんの心にも届いたと思う。でも、それで本当に橘さんが連絡してくれるのか、それがいつになるのか、それで本当に結城君の状況が良くなるのか……そんな事は起こってみないと分からない事だったから。
それまではこの不安の中で一人、耐えるしかない。きっとこれが良い結果に繋がるのだと信じて。
早く私の新しい明日が来ないかな……。
何も見えないまま、何も出来ないまま答えが出る日を待つだけの頭は、暗い未来しか想像出来なくて辛かった。
せめて橘さんの連絡先でも聞いとけば良かった……。そうすれば、ダメでもまた自分から動き出せるきっかけがある事に勇気が持てたのに。
そう何度も自分の我儘の為にみんなの手を煩わせるのは嫌だと思うと、次こそ本当に一人で立ち向かわなければならないんだと、不安が胸いっぱいに広がって、酸素の通る道を圧迫される様な感覚がする。だからたくさん息を吸わないとと、身体が勝手に苦しさから逃れる為の解決策を実行し始める。
あぁ、こうやって私は過呼吸になるんだなと、頭の中で原理を理解して、ゆっくり呼吸を繰り返す事を意識した。
大丈夫。だって橘さんが言ってたから。連絡すぐ来るよって。
縋る様に繰り返し言い聞かせる別れ際の橘さんの言葉は、今の私のお守りだった。
そして——それは、現実になった。
橘さんと話した二日後の事。いつもの様に夜の時間に鳴る事のなくなったスマホを手にベッドに横になっていると、突然手の中で着信を知らせ始めた画面の、表示された名前が目に飛び込んできた。
途端、頭で考える事もなく通話を繋げる。
「結城君?」
『あ、穂高さん! 起こしちゃった?』
「ううん、まだ寝てないよ」
「そっか」と、ほっとした様な結城君の声が耳に入る。
——本物だ。本物の結城君だ。
そう自覚した途端、驚きと嬉しさのあまり心が暴れ回り始めたのを必死に抑え込んで、なるべく平坦な声を出せる様に心がけた。だってなるべく長く結城君と話していたかったから。せっかく掛けてきてくれたんだから、何事も無かったかの様ないつも通りの対応をしたかった。そうする事で、結城君の負担を少しでも減らしたかった。
私の事なんてどうでもいい。とにかく結城君の声が聞きたい。
一つも聞き逃したくないと結城君の声に耳をすます先で、いつもはしない車が通る様な音がした。
……あれ? 今、どこに居るの?
『あのさ、外見れる?』
「……外?」
もしかしてと思いつつカーテンを開けると、家の前の道路にはこちらを見上げて手を挙げる男の人が一人。
——結城君だ。
『いてもたっても居られなくなっちゃって。突然ごめん』
「えっ、ううん! えっと……」
『今出て来れる?って聞こうと思ったんだけど、普通に迷惑だって事に気付いた……顔見れて良かった。また今度直接話すね』
「! ま、待って!」
急いで窓から離れ、ばたばたと慌ててクローゼットを開けて部屋着から適当な出て行ける洋服に着替えると、「ちょっと寝れないから散歩してくる!」と、リビングのお母さんに伝える。「もう遅いんだから気をつけてよー!」と大きな声で返って来たのに返事をして玄関を思い切り飛び出した。
そこにあったのはあの日と同じ光景だった。海に行ったあの日と。迎えに来てくれた結城君はそこに居た。私を、自分を、新しい明日に連れて行く為に——。
「行こう!」
飛び出して来て早々そう告げた私を見て、結城君は驚いた顔をしていた。
——でも。
「うん。行こう」
ふと力の抜けた優しい表情をして、結城君は歩き出す。その隣はあの時と同じで私の場所だった。
帰ってくると、スマホには穂乃果ちゃんからの連絡が入っていて、それに、“多分、大丈夫だと思う。詳しくは明日話すね”と返信をしてベッドに横になる。
なんだかどっと疲れていた。やり切った達成感はある。でも、上手くいったのかと言われると正直よく分からない。
伝えたい事は全部伝えられたし、橘さんの心にも届いたと思う。でも、それで本当に橘さんが連絡してくれるのか、それがいつになるのか、それで本当に結城君の状況が良くなるのか……そんな事は起こってみないと分からない事だったから。
それまではこの不安の中で一人、耐えるしかない。きっとこれが良い結果に繋がるのだと信じて。
早く私の新しい明日が来ないかな……。
何も見えないまま、何も出来ないまま答えが出る日を待つだけの頭は、暗い未来しか想像出来なくて辛かった。
せめて橘さんの連絡先でも聞いとけば良かった……。そうすれば、ダメでもまた自分から動き出せるきっかけがある事に勇気が持てたのに。
そう何度も自分の我儘の為にみんなの手を煩わせるのは嫌だと思うと、次こそ本当に一人で立ち向かわなければならないんだと、不安が胸いっぱいに広がって、酸素の通る道を圧迫される様な感覚がする。だからたくさん息を吸わないとと、身体が勝手に苦しさから逃れる為の解決策を実行し始める。
あぁ、こうやって私は過呼吸になるんだなと、頭の中で原理を理解して、ゆっくり呼吸を繰り返す事を意識した。
大丈夫。だって橘さんが言ってたから。連絡すぐ来るよって。
縋る様に繰り返し言い聞かせる別れ際の橘さんの言葉は、今の私のお守りだった。
そして——それは、現実になった。
橘さんと話した二日後の事。いつもの様に夜の時間に鳴る事のなくなったスマホを手にベッドに横になっていると、突然手の中で着信を知らせ始めた画面の、表示された名前が目に飛び込んできた。
途端、頭で考える事もなく通話を繋げる。
「結城君?」
『あ、穂高さん! 起こしちゃった?』
「ううん、まだ寝てないよ」
「そっか」と、ほっとした様な結城君の声が耳に入る。
——本物だ。本物の結城君だ。
そう自覚した途端、驚きと嬉しさのあまり心が暴れ回り始めたのを必死に抑え込んで、なるべく平坦な声を出せる様に心がけた。だってなるべく長く結城君と話していたかったから。せっかく掛けてきてくれたんだから、何事も無かったかの様ないつも通りの対応をしたかった。そうする事で、結城君の負担を少しでも減らしたかった。
私の事なんてどうでもいい。とにかく結城君の声が聞きたい。
一つも聞き逃したくないと結城君の声に耳をすます先で、いつもはしない車が通る様な音がした。
……あれ? 今、どこに居るの?
『あのさ、外見れる?』
「……外?」
もしかしてと思いつつカーテンを開けると、家の前の道路にはこちらを見上げて手を挙げる男の人が一人。
——結城君だ。
『いてもたっても居られなくなっちゃって。突然ごめん』
「えっ、ううん! えっと……」
『今出て来れる?って聞こうと思ったんだけど、普通に迷惑だって事に気付いた……顔見れて良かった。また今度直接話すね』
「! ま、待って!」
急いで窓から離れ、ばたばたと慌ててクローゼットを開けて部屋着から適当な出て行ける洋服に着替えると、「ちょっと寝れないから散歩してくる!」と、リビングのお母さんに伝える。「もう遅いんだから気をつけてよー!」と大きな声で返って来たのに返事をして玄関を思い切り飛び出した。
そこにあったのはあの日と同じ光景だった。海に行ったあの日と。迎えに来てくれた結城君はそこに居た。私を、自分を、新しい明日に連れて行く為に——。
「行こう!」
飛び出して来て早々そう告げた私を見て、結城君は驚いた顔をしていた。
——でも。
「うん。行こう」
ふと力の抜けた優しい表情をして、結城君は歩き出す。その隣はあの時と同じで私の場所だった。



