明日もずっと君の隣に

「俺が、結城君の明日が来るのを邪魔してる……? 結城君に、言えなかった事で?」
「……はい。それが理由で結城君はずっとあの日と今を行ったり来たりしています。それだけあなたの事が大切だったんです。信じてもらえなかったって傷ついて、でも、今は前を向きたがってる。あなたはきっと今も自分の人生を全力で生きてるだろうから、こんな自分の姿は見せられないって」
「……それ、結城君だ」

 染み渡る様に理解していく様を、目の前でじっと見つめていた。心当たりのある結城君の言葉があったのだろう。振り返る過去の思い出があったのだろう。そこに居る本当の結城君が、橘さんには見えたのだろう。

「……穂高さんは過去の俺がつけた傷に囚われた結城君を助けたいんだね」
「はい」
「俺のせいで結城君が今辛い目にあってるなら、俺も結城君を助けたい。でも俺なんかが結城君の為にどうすれば良いのか……」
「伝えてあげてください、本当の事を。あなたの気持ちを。それだけです」
「……そっか。そう、だよな」

 そしてしっかりと目が合った橘さんの瞳はもう、冷たい色はしていなくて。

「さすが結城君の彼女だな……俺、結城君と仲良くなったの怒られた事がきっかけなんだよ」
「結城君に?」
「そ。結城君はいつも真っ直ぐで、間違った事は指摘してくれるし、自分の考えをはっきり伝えてくれた。そこにかっこいいなって憧れてたんだ。退学したのも結城君が居たから出来た選択で、だから今の俺がここに居るんだよ」
「私も……私もです。結城君が居たから今の私がここに居る。結城君が助けてくれたから、だから今度は私が結城君を助けたいと思ってます」

 それに、うんと、橘さんは頷いた。

「結城君の彼女が探してるって聞いて興味持ったから来たんだけど、良かったよ、今日会えて。結城君とは全部上手くいくまで会えないって思ってたけど、良いきっかけをもらえた。知らないままぐずぐず遅くなってたら、後悔する事になってたかもしれないから」

 そして橘さんは、小さく微笑むと言った。

「結城君の事、教えてくれてありがとう。俺から動いてみるよ」
「! あ、ありがとうございます!」
「でも、その結果君が選ばれなくても怒らないでね。俺別に怒られるのが好きな訳じゃないから」
「もちろんです。良いんです、結城君が元気になってくれれば。あとはもう、良いんです。私の所に結城君が戻って来なくたって」
「えー? 本当?」

 橘さんがにやにやしながら訊ねてくる。「本音では?」なんて。

「……本音は、また私の隣に居て欲しいけど。でも、もう充分我儘言って反省しました。結城君は結城君のものですし、私はそんな結城君が好きです」
「俺の隣に居るかもよ?」
「それは嫌」
「あははは! 正直!」

 ——そして届いた飲み物をお互い飲み終えるまで、橘さんは私に昔の結城君について教えてくれた。
 俺も別に物凄く仲良かったって訳じゃないけど、と前置きをしながら語る橘さんの思い出の中の二人は、どこか大切な感覚を共有した特別な二人の様だった。友達よりも親友に近くて、でも親友というほど長く一緒に居る訳でもない。それが男の人の仲良くなり方なのかなと不思議に思った。だって私と穂乃果ちゃんとは違う在り方だったから。

 最後に橘さんが私の分までお会計を済ませてくれて、二人でお店を出る。外はすっかり暗くなっていた。

「じゃあ、もう会わないかもしれないけど、また」
「はい、ありがとうございました」

 そう言って歩き出した橘さんが「あ」と、何かを思い出した様に振り返る。

「近いうちに結城君から連絡あると思うから安心しなね」
「え……?」
「大丈夫。結城君は真面目な男だから」

 そして、じゃあねと去っていく橘さんの後ろ姿を見送って、私は帰路についた。