「……なんで結城君に退学する事伝えなかったんですか? あなたが結城君に何も言わずに消えたから、結城君の信頼を裏切ったから、結城君はずっと一人で過去に取り残されてる」
驚いた顔をする橘さんに、何も知らなかった顔をする橘さんに、苛立って仕方ない。心に嫌な冷たさと熱さが流れ込んでくる。あの時と一緒だ。結城君を責めてしまったあの時と。
「結城君はずっと自分に何か出来たんじゃないかって、期待を裏切ったのかもって、あなたの質問と自分の答えを振り返って後悔して、何も出来なかったって自分を責め続けています。あなたとの思い出に振り回される様に」
「……結城君が?」
「そうです」
「え、信じられない。結城君の話だよね? 俺の知ってる結城君はいつも真面目で間違ったりしない、芯のある考え方をする人で……」
「だからずっと考えてるんですよ。真面目にずっと向き合ってる。一緒にやめようって言ったあなたになんて答えてあげれば良かったのかって。どうすれば頼ってくれたあなたの期待に応えられて、今もあなたと友達でいられたのかって」
「…………」
結城君の為に、今私が出来る事。
「結城君、橘さんの事大好きなんです。忘れられなくて、今でも苦しんでる。ずっとずっと、あなたに囚われてる」
「…………」
「もう解放してあげてください。連絡して、あの時の事、結城君に話してあげてください。大丈夫だって、間違ってないって、友達だって言ってあげて」
そして、
「私に結城君を、返してください」
——それは、自然と言葉になって口を出ていた。
思わず今まで話していた全てを忘れるほどの衝撃。伝えるつもりは無かった。結城君に会ってくださいって、連絡してくださいってお願いするだけのつもりだったから。
でも今口から飛び出したのは、何より私がこの人に伝えたいと思ってきた事で。
私、こんな事思ってたんだ。なんて白々しい事は言わないし思わない。私の中に、橘さんに対して抱いていた気持ちはこれ以上もこれ以下も無かったからだ。
結城君の為。でもそれは私の為。
私に結城君を返してもらう為。
その為に、結城君に未来を向いてもらう為。



