「澪、連絡ついたよ」
それは保健室の件から三日後の事。みんなの力も借りて、なんとか結城君の友達である先輩から橘さん本人に連絡が着き、会う機会を作ってもらえたという報告があった。
——けれど。
「結城じゃなくて澪に会いたいんだって」
「……え?」
「しかも一人でならって事らしくて……急なんだけど、今日の放課後でも大丈夫?」
「それは全然良いんだけど、なんで私なの?」
その問いに、穂乃果ちゃんは口を閉じた後、言いづらそうに口を開いた。
「結城に、会いたくないらしい」
「……会いたくない……」
「だから上手くいかないかもしれないけど、でも澪にとっても会って話したい事あるかなって思って一応約束取り付けた……」
「……そっか」
なんで結城君に会いたくないのか。それなのになんで私には会ってくれるのか。橘さんの考えはさっぱり分からないけど……でも、これはみんなのおかげで生まれたチャンスだ。この機会を逃したらきっと何も変えられない。
「ありがとう、私、行ってみる」
私の返事に、穂乃果ちゃんは驚いた様な顔をしたと思ったら、途端に焦って慌しくなる。
「でも一人でなんて危なくない? どんな人かも分かんないし」
「ううん、大丈夫。一人で行くよ」
「それでもやっぱり一緒に、」
「大丈夫だよ。だって橘さんは結城君の大事な友達なんだから」
決意と共に穂乃果ちゃんに答えると、穂乃果ちゃんは何か言おうとして、結局それを飲み込む様に、そのまま何も言わなかった。
その代わりに、
「何かあったらすぐ連絡して」
そう言って、ぎゅっと私の手を握った。信頼と応援の気持ちが込められているであろうその手を私もぎゅっと握り返す。
「ありがとう。頑張る」
出来ないかもしれない。何も変わらないかも。でも、やれるだけの事はやりたい。結城君の為に。そして、私の為に。
場所は駅前の喫茶店だよと教えてもらって、放課後を迎えた私は集合時間に合わせてお店に入った。
すると、ハッと目を上げた窓際のテーブル席に座る若い男の人が居て、その人は私の制服を確認すると、「穂高さん?」と声を掛けてくるので、はいと返事をして彼の元へ向かう。
「橘さんですか?」
「そうです」
「すみません、お時間作ってもらって」
「いいえ。夜も仕事あるから長くは居られないけど」
そう言って、どうぞと橘さんが同じテーブルの向かいの席を指すので勧められた通りに腰を下ろした。
橘さんの耳を飾る大ぶりのピアスが目に入る。派手なタイプだと言われた通り、結城君とは雰囲気の違う人だと思った。
「で、話って?」
すでに注文を済ませた橘さんに習って私の飲み物を頼んだ所で、橘さんが本題を切り出した。
私から橘さんに聞きたい事……頼みたい事。
「結城君と会ってくれませんか?」
「嫌だ」
即答だった。でも諦めない。
「連絡だけでも良いんです」
「無理だなぁ……そのお願いをする為にわざわざここに? 断ったはずだけど」
橘さんは笑顔を浮かべていた。でもその視線はどこか鋭くて、拒絶の意思を示していて。
「結城君が俺に会いたがってるんじゃないんだよね?」
まるで、何もかも分かってるみたいな顔でそんな事を言って、
「それってただのお節介じゃない? それともこうして提案した時点で満足?」
苛立たせるその言い方に腹を立たせつつ、ふと、この感覚に既視感を抱いてハッとした。
そうだ。この苛つく感じ、
「会ったばっかの時の結城君に似てる……」
「え?」
思わず、といった私の呟きに橘さんが目を丸めたのを見て、慌ててこっちの話ですと伝えようとした、その時だ。
「結城君、今こんな感じなの?」
ぱちぱちと瞬きをして橘さんは言う。「俺の知ってる結城君と違う」と。
橘さんが知ってる結城君とは違う……。
「てことは、橘さんと疎遠になってから結城君が変わったって事じゃないでしょうか。まるで橘さんの面影を探す様に」
「……は?」
何が言いたいのかと、橘さんが視線で私に問う。
そっか、知らないんだ。どれだけ結城君が橘さんの事を心に残しているのかも、どれだけ後悔してるのかも、どれだけ大きな傷を抱えているのかも。
この人は、何も知らないんだ。
それは保健室の件から三日後の事。みんなの力も借りて、なんとか結城君の友達である先輩から橘さん本人に連絡が着き、会う機会を作ってもらえたという報告があった。
——けれど。
「結城じゃなくて澪に会いたいんだって」
「……え?」
「しかも一人でならって事らしくて……急なんだけど、今日の放課後でも大丈夫?」
「それは全然良いんだけど、なんで私なの?」
その問いに、穂乃果ちゃんは口を閉じた後、言いづらそうに口を開いた。
「結城に、会いたくないらしい」
「……会いたくない……」
「だから上手くいかないかもしれないけど、でも澪にとっても会って話したい事あるかなって思って一応約束取り付けた……」
「……そっか」
なんで結城君に会いたくないのか。それなのになんで私には会ってくれるのか。橘さんの考えはさっぱり分からないけど……でも、これはみんなのおかげで生まれたチャンスだ。この機会を逃したらきっと何も変えられない。
「ありがとう、私、行ってみる」
私の返事に、穂乃果ちゃんは驚いた様な顔をしたと思ったら、途端に焦って慌しくなる。
「でも一人でなんて危なくない? どんな人かも分かんないし」
「ううん、大丈夫。一人で行くよ」
「それでもやっぱり一緒に、」
「大丈夫だよ。だって橘さんは結城君の大事な友達なんだから」
決意と共に穂乃果ちゃんに答えると、穂乃果ちゃんは何か言おうとして、結局それを飲み込む様に、そのまま何も言わなかった。
その代わりに、
「何かあったらすぐ連絡して」
そう言って、ぎゅっと私の手を握った。信頼と応援の気持ちが込められているであろうその手を私もぎゅっと握り返す。
「ありがとう。頑張る」
出来ないかもしれない。何も変わらないかも。でも、やれるだけの事はやりたい。結城君の為に。そして、私の為に。
場所は駅前の喫茶店だよと教えてもらって、放課後を迎えた私は集合時間に合わせてお店に入った。
すると、ハッと目を上げた窓際のテーブル席に座る若い男の人が居て、その人は私の制服を確認すると、「穂高さん?」と声を掛けてくるので、はいと返事をして彼の元へ向かう。
「橘さんですか?」
「そうです」
「すみません、お時間作ってもらって」
「いいえ。夜も仕事あるから長くは居られないけど」
そう言って、どうぞと橘さんが同じテーブルの向かいの席を指すので勧められた通りに腰を下ろした。
橘さんの耳を飾る大ぶりのピアスが目に入る。派手なタイプだと言われた通り、結城君とは雰囲気の違う人だと思った。
「で、話って?」
すでに注文を済ませた橘さんに習って私の飲み物を頼んだ所で、橘さんが本題を切り出した。
私から橘さんに聞きたい事……頼みたい事。
「結城君と会ってくれませんか?」
「嫌だ」
即答だった。でも諦めない。
「連絡だけでも良いんです」
「無理だなぁ……そのお願いをする為にわざわざここに? 断ったはずだけど」
橘さんは笑顔を浮かべていた。でもその視線はどこか鋭くて、拒絶の意思を示していて。
「結城君が俺に会いたがってるんじゃないんだよね?」
まるで、何もかも分かってるみたいな顔でそんな事を言って、
「それってただのお節介じゃない? それともこうして提案した時点で満足?」
苛立たせるその言い方に腹を立たせつつ、ふと、この感覚に既視感を抱いてハッとした。
そうだ。この苛つく感じ、
「会ったばっかの時の結城君に似てる……」
「え?」
思わず、といった私の呟きに橘さんが目を丸めたのを見て、慌ててこっちの話ですと伝えようとした、その時だ。
「結城君、今こんな感じなの?」
ぱちぱちと瞬きをして橘さんは言う。「俺の知ってる結城君と違う」と。
橘さんが知ってる結城君とは違う……。
「てことは、橘さんと疎遠になってから結城君が変わったって事じゃないでしょうか。まるで橘さんの面影を探す様に」
「……は?」
何が言いたいのかと、橘さんが視線で私に問う。
そっか、知らないんだ。どれだけ結城君が橘さんの事を心に残しているのかも、どれだけ後悔してるのかも、どれだけ大きな傷を抱えているのかも。
この人は、何も知らないんだ。



