みんなには担任の先生への伝言を頼んで、私達はそのまま保健室へと向かった。一応体調不良で保健室へ行く、という体である。でも本当は具合が悪い訳ではないから、「バレたら怒られちゃうかな……」と心配すると、「そしたら二人で怒られれば良いよ」と、当たり前の顔をして穂乃果ちゃんが言うから、それもそうかと納得出来た。穂乃果ちゃんはいつもシンプルな人で、そこが私とは違う所だった。
保健室に着き、ドアを開くと、先生は驚いた顔をしていたけれどすぐに優しく私達を迎え入れてくれる。それはいつも変わらない先生の姿だった。
「先生、ごめんなさい。一時間目の間だけ居させてもらっても良いですか」
私のお願いに先生はキョトンとした後小さく笑って、
「ここはあなた達の避難所だから。また立ち上がる為の必要な休憩だって、信じてますよ」
そう、理由を話さない私達なのに、ここに居る事を許してくれた。先生はいつも私達を拒絶しない。本当はこんなのいけない事なのに、特別な事も、例外の場合もあるのだと受け入れてくれる。
そんな存在が居る事が、そんな場所がある事が、今の私になれるまでを支えてくれたのだ。結城君も、先生も、保健室も、私にとって大切な存在だった。
「ありがとうございます」
先生に感謝を述べて、私と穂乃果ちゃんは丸椅子に座った。普段は結城君と私が使っている椅子だ。
そして、あのねと、私は胸に抱える思いを、起こった出来事を、順番に穂乃果ちゃんに話していった。
「私のせいなの、結城君が休んでるの。私が我儘言ったから、結城君は自分を責める様になっちゃって……結城君の過去を掘り起こしちゃダメだって分かってたのに」
「留年してたとか、友達が退学したとか言ってたやつ? あれ本当だったの?」
「うん。詳しくは言えないけど、それを結城君はまだ引きずってて、良くなって来てたのに、私のせいでまた同じ様な状況になっちゃってるかもしれなくて……」
「かもしれない?」
「……だって結城君、私に何も言ってくれないから。大丈夫だって言って笑って、今はもう連絡しても返信もない。もう私の存在ごと全部結城君にとってストレスなんだと思う。き、」
嫌われたかもしれない。その言葉を口にするのがとても嫌で、そんな事ないんだって泣き喚いて否定する自分を心の中で押さえつけて。
「嫌われてもしょうがない事したから……もう、どうしようもないなって」
「…………」
「結城君の体調が心配だけど、もう私には何も言ってくれないと思うんだ。私、何も出来ない。させてもらえない。私のせいなのに。私は結城君の事、こんなに好きなのに」
「…………」
「ずっとずっと結城君の事考えて、原因を作ったのが自分なのに何も出来なくて、それが辛い。結城君と居た毎日を思い返すほど辛い。もっと上手く出来たんじゃって、やり直したいって……」
……あれ? これって……。
「結城君と一緒だ。橘さんの話をする結城君と……」
こんな気持ちだったんだ。自分に根付いた部分が取れなくて当たり前だ。忘れられなくて当たり前だ。このまま解決する事なくお別れする事になったりしたら、きっと私は一生引きずるだろうと思う。それを忘れさせたいなんて。私だけ見て欲しいだなんて。私はなんて無茶なお願いをしたんだろう。
「ダメだ、もうどうにもならない。私が悪い。無理な話だったんだ、私が結城君の一番になるなんて」
「なんで?」
「だって結城君の一番はずっと橘さんだ。一番心にあるのは橘さんとの過去で、結城君が後悔を手放さない限り橘さんはずっと居るんだ。当たり前だよ、忘れられる訳ない。だって傷ついてるんだもん。私だったら結城君との傷をずっと抱え続けるよ」
「じゃあ、その傷を治してあげれば良いんじゃない?」
——それは、私には思いつきもしない、考えもしなかった解決策で。
橘さんとの事で生まれた傷を、治してあげる?



