結城君が教室に来なくなった。
それは今までみたいに休みながら授業に出る事も出来ない状態だって事なのかもしれないと思ったから、もしかしたら保健室には顔を出してるのかもと先生に聞いてみたけれど、保健室にも来てないそうで。
結城君は学校に来なくなったんだと、来れなくなったんだと理解した瞬間だった。
——私のせいだ。
だって私が結城君を追い詰めたから。学校には私が居るから。原因の私が居る場所に結城君が来られる訳がない。今まで大丈夫だった保健室にだって——私が、結城君の居場所を無くしちゃったんだ。
あの日から連絡するとぽつぽつと返って来ていた返信が、今はもう届かない。きっと私を思い出すと体調が悪くなる様になっちゃったんだと思うと、全ての辻褄が合った。
なんて事をしちゃったんだろう。
私が欲を出したからいけなかったんだ。私が、橘さんに取られたく無いなんて思ったから。結城君の全部が知りたいなんて思ったから。
言えない事と、言わない事は違う。
知りたいからって、聞きたいからって、言いたい事をいつの間にか全部言葉にして結城君にぶつけてしまっていた。
それが、結城君を無理させる事に繋がったんだ。
なんで言っちゃったんだろう。過去に引っ張られないで自分を見て欲しい、なんて。
そのせいで結城君を無理させる事になってしまった。無理してたんだ、結城君は。ずっとずっと、無理して笑顔で辛さを隠してた。私に心配させない様に。
一人で乗り越える為の努力をさせてきてしまった事に、私は気づかないどころかその道に突き進むよう背中を押してしまったんだ。
そんな事しなくて良い。しないで欲しかったのに。これからも側に居てくれる中で新しい結城君を知っていけたらそれで良かった。もし辛いならゆっくり二人で乗り越えて行けたら良かった。その時隣に居られたら……それだけで、良かったのに。
でも、そんな私の思いはもう届かない。
私の存在はもう、結城君を追い詰めるものの一つでしかないのだから。
もうどうしようもなく辛くて、毎日毎日上手く笑えないでいる。結城君の居ない席を確認する度に胸が押しつぶされそうで、強い後悔と罪悪感に襲われた。
自分が、どうしようもなく嫌な人間だって思い出す。弱くて何も出来ない、卑怯で自分を守る為に人を犠牲にする様な、そんな私。
私は、私が嫌いだ。
「澪」
教室の前で足が止まって動けなくなっていた私の名前が呼ばれる。振り向くと、そこに居たのは穂乃果ちゃんだった。
「一緒にサボっちゃおっか」
ニカっと笑う穂乃果ちゃんが、私に手を差し伸べる。
『そういう時は少し悪い事をしてみるんだよ』
ふと、穂乃果ちゃんの言葉に過去の結城君の言葉が重なった。少し力を抜くんだよと、あの時結城君は言っていた。そうやって自分の事でいっぱいな私に気付いては、いつもどうすれば良いのか方法を教えてくれて、私をそこから救い出してくれていた。
それなのに私は……私は……。
その時、ぽんと、差し出されたままだった手が私の肩に優しく乗った。
ハッとした私と穂乃果ちゃんの目が合う。
「澪が倒れたらあいつ、悲しむと思うよ」
「……え?」
「だからさ、無理しないで良いんだよ。なんでも言ってよ、抱え込まないでさ。私が居るじゃん?」
「……穂乃果ちゃん……」
『穂高さんがずっと元気でいてくれたら、俺も嬉しい』
……そうだ。結城君はいつも自分の事よりなにより私の体調を気にしてくれてた。元気で居てって、今まで何回も言われてきた。その言葉は全部結城君の本心だったと思う。
私が倒れたら、結城君が悲しむ……。
「……一緒に、保健室行ってくれる?」
私のお願いに、穂乃果ちゃんは笑った。
「保健室でもどこでも行こ!」
その笑顔はいつも私を照らしてくれる。引っ張って、元気づけてくれる。
「ごめんね穂乃果ちゃん、ありがとう」



