明日もずっと君の隣に

 自覚すると、すっきりとした胸の中がその感情でいっぱいに詰まっていく。きらきらとまるで宝石の様に輝き出した、さっきまでどろどろと重かったそれ。全く同じものなはずなのに、どうしてこうもうきうき、どきどきするんだろう。こんなものが私の心の中にあったなんて。
 
 ——私、結城君の事が好きだな。

 穂乃果ちゃんと別れ、帰宅したその夜。
 ベッドでスマホの画面と向き合いながら、胸いっぱいに広がり、あふれ出そうとしているその思いをどうすれば良いのか悩みながら、通話マークに触れられずにいた。

 ——好きって言いたい。伝えたら、どう思うだろう。

 思いを言葉にして伝える事。それは怖い事ではなくて、新しい明日を迎える為の大事な手段なのだと今は感じていた。
 でも、だからって簡単に言葉には出来ない。だって結城君は私にとってたった一人の特別な人だから。
 嫌なら離れればいいとか、そんな割り切り方は出来ない。断られたら立ち直れない。
 とりあえず報告。報告だけしよう。待っててくれてるかもしれないし、声が聞きたいし。

 えい!と、思い切って通話マークに触れると、少しも待たずに通話が繋がって驚いた。やっぱり、待っててくれたんだ。

「ゆ、結城君?」
『うん。どうだった?』

 穏やかだけど、どこか緊張感を漂わせた声は、私を心配してくれていた事がひしひしと伝わってきて。

「上手くいったよ。言って良かった。結城君のおかげ!」

 嬉しくて、大好きだと思う気持ちと共に心が弾んで次々に言葉が飛び出てくる。
 みんなの事、穂乃果ちゃんの事、私の事、今日あった事を一つも漏らしたくない気持ちで語り尽くす私に、結城君は優しく相槌を打ちながら全部聞いてくれた。全部全部、一つも余す事無く。

『良かったね、穂高さん』
「うん。今は心がすっきり軽くなって、もう大丈夫って思えてる」
『大丈夫、か。じゃあもう昨日までの穂高さんじゃないって事か』
「うん! 強くなれたと思う!」

 だから結城君の事もっと支えられるし、頼って欲しいという気持ちで言った言葉だ。
 でも結城君から返ってきたのは、そんな思いとは正反対のもので。

『じゃあ、俺はもう必要ないかな』

 小さく笑うような吐息と共に告げられた、その言葉。

「え……必要ないって、そんな訳ないよ」
『でも俺と居るとみんなと居れないし、もう逃げる場所もいらないでしょ?』
「逃げる場所だから結城君の事必要だって思ってた訳じゃないよ。海で言ったじゃん、私、もっと強くなるって。今度は私が結城君を支えたいって思ってるからだよ。もっと頼って欲しいって言ったよね?」

 急に結城君の心が離れていった様な気がして、焦って引き止める様に言葉は口から飛び出してくる。

「私が強くなれたのは結城君のおかげだよ。だから今度は結城君が強くなるお手伝いを私がしたい。それが今日生まれた新しい私達だよ」
『……そっか。そう、だよな』

 それは心に染み込ませる様な呟きだった。そして画面の向こうから、ふうー、と一つ息をつく声がした。