「ち、違うよ、そういうんじゃない!」
「じゃあどういうの?」
「お、同じ経験がある仲間というか、お互いに前を向く為の心の支え、というか」
「というか?」
「大切に思い合う存在……みたいな、なんていうか、恋とかそういう軽い感じの……気持ちの問題とは違う、みたいな……」
そう。その場の雰囲気でのまれる様な、簡単に移り変われるような、そんなものじゃない。
「…………」
でも、なんて表していいのか分からない。私のこの、結城君に対して抱いてる重たい気持ち……。
「言いたくない?」
考え込んでいると、そう困った様に笑って穂乃果ちゃんが言うので、慌ててそうじゃないと否定した。穂乃果ちゃんに言いたくないとか、そういう事ではないのだ。
「好きだよ、結城君の事。ずっと側に居たいし、居て欲しいの。穂乃果ちゃんにもそう思うけど、でもその好きとは違うっていうのは分かってて——もし穂乃果ちゃんが私の事嫌ってもそんな穂乃果ちゃんも受け入れるって私言ったじゃん? でももしね、もし結城君に嫌われたら……私もう、生きていけないかも」
言葉にして想像して、ものすごく怖くなった。
もし結城君が私の事を拒絶する様になったら。もし結城君に呆れられて見放されてしまったら。
そんな私を、私は受け入れられないだろうと思う。
そんな私は居なくなれと、生きてる価値なんて無いと思ってしまうかもしれない。
「……もしかしてこれって依存? 執着してる?」
過去に引き戻されないで。橘さんじゃなくて私を見てと願ったあの時の私の感情を思い返す。
「私、結城君の特別な一人になりたいの……私が居れば大丈夫って、結城君にも思ってもらいたい。私が居るからもう過去の事も受け入れられたって、忘れられる様になって欲しい」
口に出してみると、とてつもなく汚くて自分勝手な考え方をしているなと自分に呆れた。他の人に私にしたみたいに優しくする結城君なんて想像したくもなかったし、結城君の心の側に居て支えるのは私じゃないと嫌だと思った。
過去に囚われる結城君の未来を作るのは私が良い。その時隣に居るのは私が良い。
「私が居なきゃ駄目だって、私みたいに思って欲しい」
「そんなの恋じゃん」
「恋なんて可愛いもんじゃないよ」
「そう、恋なんて可愛いもんじゃない。恋愛感情ほどどろどろしたものはこの世に無いでしょ」
「…………」
その言葉に、ハッと私の中の何かが納得させられた様な気がした。
「……私、結城君が私を見てくれるとホッとするし、嬉しくなるの。ずっと私だけ見て欲しいって、結城君の幸せを願うだけじゃなくて、私の幸せも願っちゃう」
「だから一方通行の恋は事件を起こすんじゃん。与えるだけじゃなくて向こうにも求めちゃうし、一人と一人の問題だから、友達みたいに感情がグループ内で分散出来ない。だから、生きてけない、なんて事になる」
「……そうかも。でもさ、そうならない人も居るよね?」
「澪、結構重いタイプじゃん? 恋愛だけじゃなくて、感情全般」
「……そういう事か」
どろどろして、やけに重たいこの気持ち。
「恋愛感情、だったんだ」
「重めのね。良いじゃん、好きだよそういうの」
ニカっと笑った穂乃果ちゃんに照らされて、私の重い気持ちがキラキラと輝き出す。
恋。
私は、恋をしている。



