「嫌われてるって、悲しませるのは嫌だと思う」
「うん」
「私側から傷つけるかもなんて、考えた事もなかった」
「……そうだよね」
結城君はまた、いつものように遠くを見つめる目をして私に言う。
「きっと穂高さんは考えた事もなかったと思うし、傷つけるつもりじゃなかったっていうのも分かる。でも、向こうからしたら思ってる事があるなら言って欲しかったと思うよ。良い事でも、悪い事でも。そこからじゃん、本当の付き合いって」
「うん……」
「俺は本音全部言って欲しかった。俺には言えなかったんだって、頼られなかった証拠だって、今も引き摺るくらい言ってもらえないのが悲しかったから。あいつにとっての俺ってそんなもんなんだって」
「……うん」
その時、段々と私の為に話してくれていた結城君が、私に大切な事を教えてくれるのと同時に、自分の過去へと潜っていくのを感じた。
結城君の後悔が、私の現状に重なっていくのだと思う。それは私を思って、真剣に考えてくれている証拠の様なものだった。
だって結城君は、自分の今までを私にしか話していないと言っていたから。
「……俺も、もっとあいつの考えてる事聞けば良かったんだよな……聞けるうちに、側に居るうちに」
どんどんと、結城君の目が過去の思い出に、あいつと呼ばれる橘さんの姿に囚われていくのを目の当たりにして、私の事で思い出させてしまう申し訳なさと共に、心のうちを晒してくれる様になった嬉しさを抱きつつ——それと同時に、気づいてしまった事があって。
「結城君」
そうなると、今目の前にいる結城君のその目に私は映らなくなるのだと、結城君は橘さんとの思い出に塗りつぶされてしまうのだという事に気づいた瞬間、私の心に影がかかった。
——戻ってきて。
「話してくれてありがとう。結城君のおかげで決心がついた」
今結城君の隣に居るのは私だ。
もう過去に引き戻さないで欲しい。
連れていかれないで。私を見て。
結城君を、取らないで。
「私、言ってみるよ」
「……うん。あのさ、穂高さん。前に俺、離れたら嫌われるって可笑しいって話したじゃん。そんな奴に憧れるのかって」
「……うん、覚えてるよ」
「俺、信じたかったのかも。嫌われたって思いながら、俺が憧れたあいつはそんな奴じゃないって信じたかったから、ついあんな風に強く言っちゃったんだって今思った。ごめんね。例え縁切られても憧れは消えないよな」
「……うん」
でも、橘さんが居たから今の結城君が居る。だから私達は出会えて、今隣に居られて、私に心を開いてくれてる。
「きっと結城君にとっての橘さんと、私にとっての穂乃果ちゃんは同じなんだろうね」
私にとっての結城君が穂乃果ちゃんと違う様に、結城君にとっての橘さんと私は違うものだと確認したくてそんな言葉を口にしていた。
「うん。同じだと思う。だから穂高さんと酒井さんの事、応援してる」
けれど、もちろんそんな下心に結城君が気づくはずもなく。
純粋な思いから生まれて返ってきたその言葉が、今の私にはふさわしくない気がして罪悪感がちくりと胸を刺した。
結城君は、私が結城君の心を取られたくないなんて嫌な事を考えているとはこれっぽっちも思っていないのだ。私のこの気持ちは、とても汚いものの様な気がして仕方なかった。
私の心が間違ってるんだと思う。なんでこんな事を考えるのか分からない。私は結城君を支配したい訳じゃないし、そんな結城君だから側に居たいし、居て欲しいのに。でもそれは、一生橘さんには勝てない証拠の様な気もして——だけど穂乃果ちゃんに対する憧れや好意とは明らかに違う感情がそこにはあって。
この気持ちはなんだろう。
私の抱いた思いが伝わっていなくて良かったと思う。だから結城君は、「でも無理はしないで」と、「俺が居るから」といういつも通りの優しい言葉をくれる。応援してるよと、私の背中を押す様に。
「ありがとう」
それに、私はちゃんと笑顔で答えられた——はず。
「うん」
「私側から傷つけるかもなんて、考えた事もなかった」
「……そうだよね」
結城君はまた、いつものように遠くを見つめる目をして私に言う。
「きっと穂高さんは考えた事もなかったと思うし、傷つけるつもりじゃなかったっていうのも分かる。でも、向こうからしたら思ってる事があるなら言って欲しかったと思うよ。良い事でも、悪い事でも。そこからじゃん、本当の付き合いって」
「うん……」
「俺は本音全部言って欲しかった。俺には言えなかったんだって、頼られなかった証拠だって、今も引き摺るくらい言ってもらえないのが悲しかったから。あいつにとっての俺ってそんなもんなんだって」
「……うん」
その時、段々と私の為に話してくれていた結城君が、私に大切な事を教えてくれるのと同時に、自分の過去へと潜っていくのを感じた。
結城君の後悔が、私の現状に重なっていくのだと思う。それは私を思って、真剣に考えてくれている証拠の様なものだった。
だって結城君は、自分の今までを私にしか話していないと言っていたから。
「……俺も、もっとあいつの考えてる事聞けば良かったんだよな……聞けるうちに、側に居るうちに」
どんどんと、結城君の目が過去の思い出に、あいつと呼ばれる橘さんの姿に囚われていくのを目の当たりにして、私の事で思い出させてしまう申し訳なさと共に、心のうちを晒してくれる様になった嬉しさを抱きつつ——それと同時に、気づいてしまった事があって。
「結城君」
そうなると、今目の前にいる結城君のその目に私は映らなくなるのだと、結城君は橘さんとの思い出に塗りつぶされてしまうのだという事に気づいた瞬間、私の心に影がかかった。
——戻ってきて。
「話してくれてありがとう。結城君のおかげで決心がついた」
今結城君の隣に居るのは私だ。
もう過去に引き戻さないで欲しい。
連れていかれないで。私を見て。
結城君を、取らないで。
「私、言ってみるよ」
「……うん。あのさ、穂高さん。前に俺、離れたら嫌われるって可笑しいって話したじゃん。そんな奴に憧れるのかって」
「……うん、覚えてるよ」
「俺、信じたかったのかも。嫌われたって思いながら、俺が憧れたあいつはそんな奴じゃないって信じたかったから、ついあんな風に強く言っちゃったんだって今思った。ごめんね。例え縁切られても憧れは消えないよな」
「……うん」
でも、橘さんが居たから今の結城君が居る。だから私達は出会えて、今隣に居られて、私に心を開いてくれてる。
「きっと結城君にとっての橘さんと、私にとっての穂乃果ちゃんは同じなんだろうね」
私にとっての結城君が穂乃果ちゃんと違う様に、結城君にとっての橘さんと私は違うものだと確認したくてそんな言葉を口にしていた。
「うん。同じだと思う。だから穂高さんと酒井さんの事、応援してる」
けれど、もちろんそんな下心に結城君が気づくはずもなく。
純粋な思いから生まれて返ってきたその言葉が、今の私にはふさわしくない気がして罪悪感がちくりと胸を刺した。
結城君は、私が結城君の心を取られたくないなんて嫌な事を考えているとはこれっぽっちも思っていないのだ。私のこの気持ちは、とても汚いものの様な気がして仕方なかった。
私の心が間違ってるんだと思う。なんでこんな事を考えるのか分からない。私は結城君を支配したい訳じゃないし、そんな結城君だから側に居たいし、居て欲しいのに。でもそれは、一生橘さんには勝てない証拠の様な気もして——だけど穂乃果ちゃんに対する憧れや好意とは明らかに違う感情がそこにはあって。
この気持ちはなんだろう。
私の抱いた思いが伝わっていなくて良かったと思う。だから結城君は、「でも無理はしないで」と、「俺が居るから」といういつも通りの優しい言葉をくれる。応援してるよと、私の背中を押す様に。
「ありがとう」
それに、私はちゃんと笑顔で答えられた——はず。



