すると、先生の陰からひょっこり顔がのぞいて私とバッチリ目が合った。あ!と、その瞬間、頭に名前が思い浮かぶ。
“一年三組 結城洋”
確かに、先ほどの利用者記録の中にあったその名前。同じクラスのあまり教室に顔を出さないその人は、今ベッドから私を見つけて目を丸くしてこちらを見つめていた。
……正直、ほとんど初対面。同じクラスでとはいえ、これが彼とのはじめましての様なものだった。
彼はたまに授業に参加してはいるものの、それ以外のほとんどの時間を保健室で過ごしているのだと噂で聞いた。実は留年しているのだとも。でも私の周りには彼が何故保健室に居るのか、何故留年しているのか、詳しい所まで知る人はいなかったし、話題にもあがらなかったから、彼についての情報を私はこれっぽっちも持っていなかった。
そんな私が結城君と教室で話す様な事は入学してから今日まで一度も無くて、彼も彼で教室に居る間に誰かと何かをするでも無く、いつも机に伏せっている様な物静かな人という事だけが私の中の結城洋という人のイメージだった。
……本当に保健室に居るんだ。
それが今、保健室で出会った彼に対して抱いた初めての感想。
「わ、女子じゃん。気まず」
「男子でも気まずいでしょう」
「それはそう。いいよ、一人で行くし」
「こらっ! 待ってもらったんだからお礼くらい言いなさい!」
頭をガシガシと掻きながら私の横を通り過ぎようとする彼に先生が声を掛けると、「えー、先生が勝手に言ったのに……」と、不貞腐ながらも彼はそのまま私に視線を寄越した。その瞬間、ピタリと私と彼の視線が合う。
横に並んだ彼はとても大きかった。スラリと背が高い事に今気が付いたのは、こんなに近くで彼と対面した事が無かったから。覗き込む様に屈んだ彼と目の合う距離が近くなると、ギュッと背筋に力が入った。ジッと私を見つめるその切れ長の瞳に、何故か品定めされている様な気持ちになったからだ。
「待たせてごめんね。先生の言う事聞けてえらいね」
「あ、いや、」
「でも、聞かなくて良い事もあるよ。今回とか。ちゃんと断りましょう」
「…………」
そう言うと、彼、結城君はさっさと保健室を出て行ってしまい、私は何も言えずに背筋を伸ばしたままその場に取り残される事となった。その間ピシリと、何故か身体は石の様に固まっていた。
“一年三組 結城洋”
確かに、先ほどの利用者記録の中にあったその名前。同じクラスのあまり教室に顔を出さないその人は、今ベッドから私を見つけて目を丸くしてこちらを見つめていた。
……正直、ほとんど初対面。同じクラスでとはいえ、これが彼とのはじめましての様なものだった。
彼はたまに授業に参加してはいるものの、それ以外のほとんどの時間を保健室で過ごしているのだと噂で聞いた。実は留年しているのだとも。でも私の周りには彼が何故保健室に居るのか、何故留年しているのか、詳しい所まで知る人はいなかったし、話題にもあがらなかったから、彼についての情報を私はこれっぽっちも持っていなかった。
そんな私が結城君と教室で話す様な事は入学してから今日まで一度も無くて、彼も彼で教室に居る間に誰かと何かをするでも無く、いつも机に伏せっている様な物静かな人という事だけが私の中の結城洋という人のイメージだった。
……本当に保健室に居るんだ。
それが今、保健室で出会った彼に対して抱いた初めての感想。
「わ、女子じゃん。気まず」
「男子でも気まずいでしょう」
「それはそう。いいよ、一人で行くし」
「こらっ! 待ってもらったんだからお礼くらい言いなさい!」
頭をガシガシと掻きながら私の横を通り過ぎようとする彼に先生が声を掛けると、「えー、先生が勝手に言ったのに……」と、不貞腐ながらも彼はそのまま私に視線を寄越した。その瞬間、ピタリと私と彼の視線が合う。
横に並んだ彼はとても大きかった。スラリと背が高い事に今気が付いたのは、こんなに近くで彼と対面した事が無かったから。覗き込む様に屈んだ彼と目の合う距離が近くなると、ギュッと背筋に力が入った。ジッと私を見つめるその切れ長の瞳に、何故か品定めされている様な気持ちになったからだ。
「待たせてごめんね。先生の言う事聞けてえらいね」
「あ、いや、」
「でも、聞かなくて良い事もあるよ。今回とか。ちゃんと断りましょう」
「…………」
そう言うと、彼、結城君はさっさと保健室を出て行ってしまい、私は何も言えずに背筋を伸ばしたままその場に取り残される事となった。その間ピシリと、何故か身体は石の様に固まっていた。



