「あら、穂高さんいらっしゃい。なんだかお久しぶりね」

 ノックをして保健室のドアを開くと、先生がいつもの優しい笑顔で迎え入れてくれてホッと心が和らいだ。覗いてみると奥のテーブルにはすでに結城君の姿もある。
 私の視線に気づいた先生はにこりと笑うと言った。

「穂高さんもだけど、結城君も今日保健室に来るの初めてなのよね。もうびっくり」

 すると、先生が目を向けた先の結城君がしれっとした顔で、「全部穂高さんのおかげで」なんて答える。

「そうなの? 穂高さん」
「い、いえっ、結城君が助けてくれたおかげで……そういえば本当に結城君、今日ずっと教室に居たね」
「まぁ、うん。もともとその日の具合によって軽くなって来てたのもあると思うけど、なんか今までの事を言葉にして聞いてもらえたら楽になって……今日、いけそうだなって」
「! それ分かる。私も昨日そうだった」

 早速取り出したパンを齧りながら話す結城君と同じ様に丸椅子に座ると、私も持って来たお弁当を食べ始める。
 先生はそれに何も言わず、うんうんと嬉しそうに話を聞いていた。

「でも穂高さん、今日は何かあったんだよね?」
「え?」
「じゃないとあんな連絡してこないよね?」
「あー……うん。まぁ」

 連絡した時点で結城君は察してくれていたらしい。
 結城君が良くなった所にこんな話をするのはちょっと申し訳ないけど、でもその為に結城君に連絡したし、だから結城君もここに誘ってくれたんだと思うし……。

「えっと、体調はね、本当に今の所大丈夫でなんとかなってるの」
「ぽいよね。今日平気そうだなって思ってた」
「うん。昨日もそう。結城君がきっと明日は新しい一日になるって言ってくれてから、なんか本当に変わったというか、心に余裕が出来たというか……前を向ける様になったというか。そんな事で?って思われたらあれなんだけど……」
「いや、分かるよ。俺も今日体験してるし。人の言葉って特別な力がある時あるよな。結局自分を落ち込ませるのも助けるのも人なんだなって思った」
「そう! そうなんだよ」

 やっぱり結城君は分かってくれる!と喜んでいると、「それが昨日穂高さんが言ってた変われた自分かぁ」と思い出しながら納得した様に言うので、突然あの時の大泣きした自分の醜態を思い出して恥ずかしくなる。

「……で、変われたって言ったばかりなのに恥ずかしいんだけど、その、私さ、またみんなとの事で上手くいかなくて……なんていうか、まだみんなに言えないんだ」
「何を?」
「本当の事……っていうのかな。自分の本心っていうか……今までずっと思った事があっても隠してみんなに合わせるのが私でね、誤魔化したり、思ってないのに頷いたりしてきたの。そんな自分が嫌で、自分を嫌いになるばっかりの毎日が嫌で悩んでたんだけど、昨日一瞬だけみんなの前で素直に言えた瞬間があって……」

 そうだ、あの時私は素直に頷けていた。
 結城君の話題になって、知らない結城君の事を知って、結城君の事が気になるのか穂乃果ちゃんに訊かれて、それでうんって——。

「で、でも、今日は言えなくて。そしたら秘密主義だよねって言われて、それは信頼してないからだって……」