「おはよう、穂高さん」

 いつもの様に登校して、いつもの様に穂乃果ちゃん達と集まって話していた所に、いつもとは違って掛けられた挨拶。

「! お、おはよう結城君!」

 そう、まさかの結城君だ!
 こんな事今まで一度もなかったのに!

「ははっ、声でか」
「だってびっくりして!」
「きっと全部の言葉にビックリマークついてたよ」

 なんて笑って冗談まで言うと、そのまま私達の横を通り過ぎて、何事も無かった様に結城君は自分の席に着いた。びっくりし過ぎて私はまだ心臓がドキドキしてるっていうのにだ。

「え、え? 何?」

 そしてもちろん驚いたのは私だけじゃない。穂乃果ちゃん達みんなも目を丸くして結城君を見たまま私へその大きな目を向けると、「何が起こってるの?」「どういう事なの?」と口々に訊ねてくる。

 どういう事……どういう事なんだろう。

「あ、新しい明日……みたいな」
「は?」
「新しい私達、とでも言いますか……」
「え、付き合ったの?」

 それにはもちろん大きく首を振って否定して、でもだったら何だと訊かれても答えられなくて……。

「澪って謎多いよね」
「てゆーか秘密主義?」

 ついに言われてしまったその言葉に、ガンと頭を殴られた様なショックを受けた。私、そんな風に思われてたんだ……と思いつつ、思い返せば胸には思い当たる節しか見当たらなくて。

「なんでも口から出ちゃうから澪みたいなの私には無理だわ」
「同感。ここ来ると急に秘密が秘密じゃなくなるんだよね」
「とりあえず聞いて!って全部話してるの何なんだろって思う時ある」
「そうなれるほど信頼されてないんだよ」

 ハッと、その一言にみんな口を閉じると一斉に声の主を見る。
 それは穂乃果ちゃんだった。穂乃果ちゃんが、つまんなそうな顔して投げ捨てる様にその一言を呟いて、そして視線が集まったのを確認すると、にこっと笑った。

「ま、私が澪だったらこんな所で言わないね。すぐ人に言うじゃんここのみんな。信用ならない」
「ひど〜! 私らだって誰にでも言う訳じゃ……」
「ない……とも言い切れない……」
「ね。自覚あり」

 そして、「どうしたら口って固くなるんだろ〜」と、話題は移り変わり、それに穂乃果ちゃんが「それが自分なんだからそれはそれで良いんじゃん? 裏表なくて私は好きだよ」なんて言葉でまとめてくれて、大問題になる事なくその場を終える事が出来た。

 良かった……本当に。

 心臓がドキドキし始めていたから。また体調が悪くなる事なくその場を終えられたのは大きな変化で、昨日に引き続き今日もまた、私は乗り越える事が出来たのだ。
 でも、それで心が落ち着いた、って事にはならなくて——。

 ……まさか、今まで私がしてきた事がこんな形になって返ってくると思わなかったな。