——違う、こんなんじゃ駄目だと気付いたのは、だいぶ経って涙が落ち着いてきた頃で。
 今辛いのは結城君で私じゃないのにと、結城君を落ち着かせてあげなきゃならないのに、なんで私はこうなんだろうと、その頃にはようやく自分に反省出来るだけの冷静な頭に戻ってこれたので。

「ゆ、結城君。無理しないで落ち着いてね……」

 と、取ってつけたように鼻をすすりながら結城君へ声を掛けると、さすっている結城君の背中がさっきよりもゆっくりと上下している事に気がついた。

「あ、だいぶ落ち着いた……?」

 と、思った事をそのまま口にしながら隣の結城君の様子を窺うと、じっとこちらを見つめる結城君と目が合って驚いた。
 まるで観察するみたいに私を見ていた結城君は、どうやらすでに体調は落ち着いていて、どちらかというと私の方が大騒ぎになっていたみたいで……。

「え! ご、ごめん! え! いつから?!」
「ガチ泣きじゃん……」
「え?」
「こんな風に人が泣いたとこ見たの小学生振りかも……」

 ……と、揶揄われ、一気に気分は最悪に。

「……そりゃあそうでしょ……結城君が辛そうで悲しかったし、心配したし、一人ぼっちみたいに言うから……」

「もう大丈夫なの?」と訊ねると、「うん」と落ち着いた様子の結城君が頷く。そして、「ありがとう」と感謝を述べると続いて呟いた。

「俺、一人じゃないんだ」

 どうやら、あんな状況でも私の言葉が耳に届いていたらしい。

「だって、私が一人じゃないならそういう事じゃん」
「そっか。穂高さんには俺が居るなら、俺には穂高さんが居るんだ……」

 まるで確認するみたいに言う結城君は、やっぱりそういう認識が無かったのだ。
 それってちょっと落ち込む。

「あのさ、私じゃ頼りにならないだろうけど、私は私が居るって思って貰えるくらい頼りにされたいと思ってるよ。辛い事を分け合えるくらいには」

 結城君は、ずっと一人で抱え込んだ辛さを誰にも見せてないんだと思う。今までずっと、誰にも見せられなかったのだと。
 だって私と結城君は同じだから、そうだとすると、わかるんだ。

「話してよ、結城君の事もっとたくさん。話して外に出すだけでも心って軽くなるよ。この海で叫んだ時にすっきりしたみたいにさ、私に結城君の悩みとか、駄目だと思う部分とか預けてみなよ」
「!」
「全部私が飲み込んであげる。今この海に沈んでる分も全部、もう一人で見つけて苦しくならないように。辛くなったら私と一緒に思い出せるように」
「…………」