「あの時俺の悩みが解決したのはこの海で叫んだ事がきっかけだったから、穂高さんの何かのきっかけになれたらなと思ったんだけど……俺、駄目だね」

 さらさらと語る結城君の話し方に反して、その裏に変に力が入っているような違和感……なんだか、結城君の呼吸が落ち着かないような気がする。

「だからあいつは俺を置いてったんだ。俺だけ置いて……、だって俺は、頼れる存在じゃないから。俺はどうするのが正解だったのかずっと分からないままでいる。俺だけずっと、あの頃のままずっと……っ!」

 ついには、はっ、はっ、と荒い呼吸を繰り返す結城君にマズイと感じた。これには身に覚えがある。これは、このままじゃきっと、

「結城君、落ち着いて」
「はっ、はっ」
「息を吐くんだよ、ゆっくり長く。落ち着いて、大丈夫。大丈夫だよ」

 しゃがみ込む結城君の背中をさすりながら、あぁ、そういう事だったんだと思った。
 この人は、私と同じなんだ。自分を受け入れられなくて、責め続けている。まるで暗闇に閉じ込められたみたいに。
 きっとずっと耐えてきたんだ。一人きりで、たくさん考えて、何度も辛い目に遭いながらたった一人で、ずっと一人で——。

「私が居るよ!」

 励まし、宥める言葉を口にする中で、思わず叫んでいた。

「結城君には私が居る。結城君が居てくれたから今ここに居る私が居る」

 だって、私の眠れない夜に終わりを見せてくれたのは結城君だ。新しい明日を連れてきてくれたのは結城君だ。

「置いてかれたとか、あの頃のままとか分からないけど、頼れないっていうのは違うよ。結城君が居るから、私は今一人じゃないんだよ」

 結城君が居なかったら私はどうなっていただろう。

「私、結城君を頼りにここまで来れたんだよ。今日ね、結城君のおかげで一日ちゃんと過ごせたの。結城君がくれた今日のおかげ。だから私を助けてくれた結城君を駄目だなんて言わないで欲しい……結城君が居たから私はここに居るんだから」

 ぼろぼろと涙があふれて止まらなかった。悲しかった。結城君が自分を責めているのが。結城君が世界に取り残されてるみたいに感じていたのが。ずっと辛さを一人で抱えていたのが。

「私、結城君を信じてるよ。頼りにしてるよ。だから一人だって思わないでよ……」

 一人じゃないよって、言ってくれたのに。結城君がそう言ってくれたの、忘れちゃったの?

「次は私を頼ってよぉ〜!」

 うわーん!と泣きながら、ただただ私は結城君の背中をさすり続けた。
 その背中は温かく、結城君の心も身体もここにある事を実感して、この存在が大事なのだと感じると余計に涙があふれでて止まらなかった。