自転車を砂浜の手前に停めると、結城君は迷わず波打ち際まで進んでいくのでそれに続いた。濡れてしまうギリギリのラインでピタリと止まり、私もその隣に並ぶ。足元には太陽の届かない、夜の真っ黒な海水が押しては引いてを繰り返し、波模様を作っていた。
隣の結城君を見ると遠く海の先を眺めていて、真似する様に結城君が眺めている海の先を一緒に見つめてみた。だけど特にこれといって特別なものがあるようには見えなくて、手前では波が形を作り、奥に見える水平線はずっと真っ直ぐ続いていて、それを結城君は飽きずにぼんやりと眺めていた。
今、結城君は何を思ってるんだろう。
遠くを見つめる瞳って、何かに思い馳せる時に見せる瞳とよく似てると思う。
今この海を前に結城君の目には何が映ってるの?
「久しぶりに来たけど、変わんないな。海なんてそんなもんか」
結城君がぽつりと呟くと同時に、小さく笑うように息を逃した。それはまるで何かを嘲笑っているかのように見えて……でも、その何かってなんだろう。
変わらない海の事?
それとも、結城君自身?
「……特別な場所だったの?」
「うん。まぁ、俺にとっては」
そして、「ここにはダサい俺が沈んでるんだ」と結城君は、海へ目をやりながら続けた。
「真っ黒な海に向かって心の中のモヤモヤを吐き出すと、自分の中に生まれた嫌な物が引いていく波に乗せて沖に出て、そのまま海の藻屑となって消えてくれるって言われてさ、俺、ここで叫んだんだ」
「叫んだ?」
「そ。うおー!って。めっちゃ恥ずいけど、それですっきりした俺も居て……」
「?」
「……だから今日、穂高さんにもやってもらおうかなと思います」
「えぇ?!」
その信じられない提案に思わず声を上げると、私を見た結城君がニヤリと笑ったと思ったら、「なーんちゃって」と。
「やっぱりやめとこ。きっと俺とやっても意味ないと思う」
「た、助かるけど……なんで意味ないの?」
「だって、結局その俺は今もここに居るから。この海に沈んでるだけで消えてなくなったりなんてしてないんだって、なんか気付いた。きっと俺には無理なんだ」
結城君の瞳が曇り始める。その様を私は隣で見つめていた。
「俺は変わらずここに居る。それがきっと答えなんだ。海の底からあの時の自分が俺を見てる気がする。あの後上手く出来なかった自分を恨んでる気がする。これは俺達の思い出だったのに……」
そして、「ごめんね穂高さん」と結城君は私に謝った。
隣の結城君を見ると遠く海の先を眺めていて、真似する様に結城君が眺めている海の先を一緒に見つめてみた。だけど特にこれといって特別なものがあるようには見えなくて、手前では波が形を作り、奥に見える水平線はずっと真っ直ぐ続いていて、それを結城君は飽きずにぼんやりと眺めていた。
今、結城君は何を思ってるんだろう。
遠くを見つめる瞳って、何かに思い馳せる時に見せる瞳とよく似てると思う。
今この海を前に結城君の目には何が映ってるの?
「久しぶりに来たけど、変わんないな。海なんてそんなもんか」
結城君がぽつりと呟くと同時に、小さく笑うように息を逃した。それはまるで何かを嘲笑っているかのように見えて……でも、その何かってなんだろう。
変わらない海の事?
それとも、結城君自身?
「……特別な場所だったの?」
「うん。まぁ、俺にとっては」
そして、「ここにはダサい俺が沈んでるんだ」と結城君は、海へ目をやりながら続けた。
「真っ黒な海に向かって心の中のモヤモヤを吐き出すと、自分の中に生まれた嫌な物が引いていく波に乗せて沖に出て、そのまま海の藻屑となって消えてくれるって言われてさ、俺、ここで叫んだんだ」
「叫んだ?」
「そ。うおー!って。めっちゃ恥ずいけど、それですっきりした俺も居て……」
「?」
「……だから今日、穂高さんにもやってもらおうかなと思います」
「えぇ?!」
その信じられない提案に思わず声を上げると、私を見た結城君がニヤリと笑ったと思ったら、「なーんちゃって」と。
「やっぱりやめとこ。きっと俺とやっても意味ないと思う」
「た、助かるけど……なんで意味ないの?」
「だって、結局その俺は今もここに居るから。この海に沈んでるだけで消えてなくなったりなんてしてないんだって、なんか気付いた。きっと俺には無理なんだ」
結城君の瞳が曇り始める。その様を私は隣で見つめていた。
「俺は変わらずここに居る。それがきっと答えなんだ。海の底からあの時の自分が俺を見てる気がする。あの後上手く出来なかった自分を恨んでる気がする。これは俺達の思い出だったのに……」
そして、「ごめんね穂高さん」と結城君は私に謝った。



