ベッドに横になると先生がカーテンを閉めてくれたので、そこに私一人の空間が出来た。カーテンの外側からは先生の動く音が微かに聞こえて来て、遠くの方でピーッと笛の音がする。きっとグラウンドでどこかのクラスが体育の授業を行っているのだろう。
 全てから解放された様な穏やかな気持ちでそれらの音を聞いていると、なんだか心地が良くなってきて、私は身体の力を抜いてそっと目を閉じた。

 今、みんなは何をしているんだろう。でも、何をしていようと私には関係無い。だって私は今、保健室に居るんだから。
 そうやってみんなと自分を区別出来る事が、こんなにも心を軽くするなんて。
 
 ぼんやりと良い気持ちのまま微睡んで——気がつくと、次に目が開いたのは先生の、「穂高さん、カーテン開けるよ」の声が聞こえてきた時だった。
 その瞬間、自分の身に何が起こったのか分からなくて、瞬きをパチパチしながら何秒か掛かって理解した。なんと私は、目を閉じた後の微睡む時間もそこそこに眠りにつき、そこから一コマ分完全に爆睡していたのだった。

「大丈夫? 戻れそう?」
「あ、はい。なんかもう大丈夫みたいです」
「それなら良かった。ちゃんと沢山寝て沢山食べて元気になるのよ」

 腰に手を当てた先生の口から出た言葉はお母さんのそれみたいで、なんだか可笑しくて笑ってしまった。緊張していた始めの気持ちはすっかり解れて、頭がスッキリ綺麗になっている。もしかしたらただの睡眠不足だったのかもしれない。最近よく眠れてなかったから、今少し寝れた事で身体の不調が消えて心の切り替えが出来た、そんな感じ。

 よし。後一時間、頑張るぞ。

 ベッドから降りてお礼を言い保健室を出ようとすると、「あ、ごめんちょっと待って」と、先生に引き止められた。何だろうと首を傾げる私に、先生は顔の前で両手を合わせたごめんねのポーズをする。

「今日は最後頑張る約束してるから、良かったらこの子も連れてってくれない?」
「?」

 この子? 連れて行く? え、知らない人と二人で戻らないといけないの?と、戸惑いながら先生の次の言葉を待っていると、先生は私が寝ていた隣のベッドのカーテンをザッと勢い良く開けた。

「はーい、おしまい。約束の時間です」
「……えー……」
「今日の午後は教室に行く約束でしょ? 君なら出来ると先生は信じています。約束は守る。そうだよね?」
「…………」

 奥のベッドで先生と誰かが話している。どうやら私の他にも生徒がベッドを利用していたらしい。カーテンは開かれているけれど、先生の背中に隠れていてそこに居る生徒の顔は分からなかった。

「ほら、頑張るよ。見てごらん、クラスのお友達が一緒に行ってくれるって」
「……は?」