お母さんに今夜の事は話を通してある。友達が近くでバイトしてて終わる時間に合わせて顔を出す約束になってる、みたいな感じで本当の事は伝えてないけど、一応外出の許可は得ているので心置きなく外に出れた。
良かった、結城君。体調悪くなさそう。
「ごめんね、お待たせ」
「ううん。じゃあ行こっか」
そう言った結城君は停めていた自転車のスタンドを上げると、こちらを見る。
「歩いても行けるけど、後ろ乗る?」
「えっ、いいよ! 危ないし!」
「そう? ま、そうだね。ここからならそんな遠くないし、遅くならないと思う」
「……どこに行くの?」
ようやくそのタイミングが来たと、ついに目的地を訊ねると、結城君はきょとんとして、「あれ? 言ってなかったっけ?」と瞬きをする。
「海だよ」
「海?」
「そう。夜の海」
そして結城君が歩き出したので、遅れないように私もそれに続いた。
夜の海……。
「なんで海なの?」
隣を歩く結城君に訊ねると、結城君はふふっと小さく笑ってこちらを見る。
「やっぱそう思うよな」
「? うん」
「俺もそう思ったんだよな……」
「……?」
そう言って、遠くを見つめる結城君はまるで何かを思い浮かべて懐かしんでいる様に見えた。
……この感じだと、『俺もそう思ったんだよな』っていうのはきっと、結城君から私への言葉として受け取ったら間違いなんだと思う。
てことは、結城君が今私を海に連れていく事に対して感じたんじゃなくて、私みたいに連れて行ってもらった事でそう感じた事があるっていう事?
昔、誰かに同じ様に海に連れて行ってもらった——あ。
「あいつ?」
「え?」
「あ、ごめん。ほら、昨日の夜結城君があいつって言ってた人が気になって……」
「あぁ。良く覚えてたね」
素直に感心したという表情をする結城君が、「なるほどな〜」と呟く。
「穂高さんは、小さい所にも気が付いて逃せないタイプなんだな。真面目だから」
「真面目……」
「もしかしてずっと考えてた? そんなに意味深だった?」
「……うん」
意味深だった。そりゃああんな風に呟かれたら気になってしまうし、何かあるに決まってるなと感じて当然だ。
でも、気づいたのも、考えてたのもそれだけが理由じゃない。
だって私は、結城君の事がもっと知りたいと思ってるから。
「なんで今日結城君学校休んだの?」
「……あー、ちょっと駄目だった」
「駄目?」
「うん。でも今こうやって来れたから……やっぱり大事な事なんだなって思って」
「何が?」
そう訊ねると、結城君は疲れた様な、困った様な顔で笑った。
「なんていうか……この、使命感? みたいなの」
「使命感」
なんか前にも言ってた気がする。体育の時だったかな。
「それがきっと気持ちを置き換えてくれてるんだと思う。だから、今日来たのは俺の為でもあるんだ」
「?」
「あの時みたいに変われるかなって……うん。まぁ、着いたら話すよ」
そう言った結城君が前に目をやるので、私も一緒に同じ方を向く。潮風の香りが濃くなっていて、もうその先には海が見えていた。
良かった、結城君。体調悪くなさそう。
「ごめんね、お待たせ」
「ううん。じゃあ行こっか」
そう言った結城君は停めていた自転車のスタンドを上げると、こちらを見る。
「歩いても行けるけど、後ろ乗る?」
「えっ、いいよ! 危ないし!」
「そう? ま、そうだね。ここからならそんな遠くないし、遅くならないと思う」
「……どこに行くの?」
ようやくそのタイミングが来たと、ついに目的地を訊ねると、結城君はきょとんとして、「あれ? 言ってなかったっけ?」と瞬きをする。
「海だよ」
「海?」
「そう。夜の海」
そして結城君が歩き出したので、遅れないように私もそれに続いた。
夜の海……。
「なんで海なの?」
隣を歩く結城君に訊ねると、結城君はふふっと小さく笑ってこちらを見る。
「やっぱそう思うよな」
「? うん」
「俺もそう思ったんだよな……」
「……?」
そう言って、遠くを見つめる結城君はまるで何かを思い浮かべて懐かしんでいる様に見えた。
……この感じだと、『俺もそう思ったんだよな』っていうのはきっと、結城君から私への言葉として受け取ったら間違いなんだと思う。
てことは、結城君が今私を海に連れていく事に対して感じたんじゃなくて、私みたいに連れて行ってもらった事でそう感じた事があるっていう事?
昔、誰かに同じ様に海に連れて行ってもらった——あ。
「あいつ?」
「え?」
「あ、ごめん。ほら、昨日の夜結城君があいつって言ってた人が気になって……」
「あぁ。良く覚えてたね」
素直に感心したという表情をする結城君が、「なるほどな〜」と呟く。
「穂高さんは、小さい所にも気が付いて逃せないタイプなんだな。真面目だから」
「真面目……」
「もしかしてずっと考えてた? そんなに意味深だった?」
「……うん」
意味深だった。そりゃああんな風に呟かれたら気になってしまうし、何かあるに決まってるなと感じて当然だ。
でも、気づいたのも、考えてたのもそれだけが理由じゃない。
だって私は、結城君の事がもっと知りたいと思ってるから。
「なんで今日結城君学校休んだの?」
「……あー、ちょっと駄目だった」
「駄目?」
「うん。でも今こうやって来れたから……やっぱり大事な事なんだなって思って」
「何が?」
そう訊ねると、結城君は疲れた様な、困った様な顔で笑った。
「なんていうか……この、使命感? みたいなの」
「使命感」
なんか前にも言ってた気がする。体育の時だったかな。
「それがきっと気持ちを置き換えてくれてるんだと思う。だから、今日来たのは俺の為でもあるんだ」
「?」
「あの時みたいに変われるかなって……うん。まぁ、着いたら話すよ」
そう言った結城君が前に目をやるので、私も一緒に同じ方を向く。潮風の香りが濃くなっていて、もうその先には海が見えていた。



