そういえば結城君、まだ来てないな。
結城君の席は空っぽのままだ。今日は遅れてくるのかなと前へ向き直ると、そのまま時間割り通りに一日は過ぎてゆき——結局その日、結城君は学校に来なかった。
結城君、どうしたんだろう……。
もしかしたら具合が悪くて保健室を出られなかったのかもしれないと、帰りに保健室に顔を出してみたものの、保健室の先生も今日は来てないのだと言う。
あれ? じゃあ約束は……?
連れて行きたい所があるって言ってたけど、学校来れないんじゃやっぱり無しになっちゃうのかな……。
“結城君、お休みみたいだけど大丈夫?”
そう連絡を入れると、家に着いた頃に返事があった。
“穂高さん学校まで歩きだよね? 家ってどこら辺?”
唐突な自宅確認である。つまり大丈夫って事なのかな。
“踏み切り渡ったコンビニの近くなんだけど、分かる?”
“分かる。夜、迎えに行くから詳しい場所送って欲しい”
「え……え! 迎え?!」
“いいよ大丈夫だよ! 分かるならコンビニ集合とかで”
慌てて返信すると、すぐに返ってきた。
“夜だって言ったじゃん。危ないから”
「…………」
し、心配してくれてる……!
どきどきといつもとは違う心臓の高鳴りを感じつつ、でもそんなの申し訳な過ぎるしちょっと恥ずかしい……とか、だけどぐだぐだやり取り続けるのも怠いと思われる?なんて思い始め、せっかく言ってくれてるのに断るのも申し訳ないのかも……と、結局観念して位置情報を送ると、“じゃあ九時に。着いたら連絡する”と返信が来て、“分かった”という返事と共にアプリと閉じた。
あぁ、どうしよう……!
まさかこんな事になるなんて。もしかしたら今日は無くなるかもとすら思ったのに、結城君の方は全然そんな感じじゃなかった。しかもなんかすごく大切にされてる気持ちになってしまってる……でも、本当に結城君大丈夫なのかな。
今日学校を休んだ事に対しての反応はなかったから。きっと大丈夫なんだと思うけど、でも、なんで休んだんだろう。
体調のせい? ただの気分? それとも家の都合?
気になって気になって、聞きたい事が熱くなっている胸の内側からどんどん溢れてくる。
もしかして始めから家まで迎えに来てくれるつもりだったの? なんでそんなに優しくしてくれるの? 女子にはみんなそうなの?
結城君の事は分からない事ばかりだ。そういえば今日どこで何をするのかも聞いてない。何か必要なものがあるかなとか、色々思う事はあるけど、でも、不安はない。
あるのは胸の高鳴りと、新しい何かと出会える期待感。
今日私、学校で大丈夫だったんだよ。結城君が昨日魔法をかけてくれたから、結城君が私に新しい明日をくれたから、だから今日、私は私でいられたんだよ。
結城君の今日はどうだった? 今日は何をしてたの?
私の話がしたい。結城君の事を話して欲しい。
もっともっと、全部知りたい。
「早く会いたいな……」
九時になるのが待ち遠しくて、何度も何度も時計を確認しながら結城君の連絡を待った。
そして、ようやく九時になるといった頃合いでスマホが震えたので飛びつくように確認すると、
“着いたよ”
結城君から一言送られてきていて、窓を開けると下でこちらに気づいた結城君が手を振っていた。



