「マジ? サボりすぎて?」
「いや、普通に真面目だったって。でも友達が退学したとかなんかで、そこから様子が可笑しくなったって」
「どういう事? 自分もやめようと思ったとか?」
「分かんない」
……そういえば昨日、あいつって言ってた。
思わず言葉にしていたみたいな言い方だった。あいつ?と訊ねる私の声は届いていないような感じで、確かあの時結城君は、そんな自分は見せられないって……。
「なんか、普通に先輩達と仲良かったみたいなんだよね。意外じゃない?」
「あんたの同中の先輩みんな派手だもんね……」
「流石に隠が過ぎるからね、あいつ。澪と関わりなかったら話してるとこ見た事なかった」
「よく二人でいられるよね澪は。二人の時何話すの?」
「え……いや、別に普通に、体調心配してくれてそれについて話したり——」
結城君と、何を話してる?
それ以外に何かある?
私は、結城君の何を知ってる?
「——他には、特にないかな」
「ないんかーい! 何? 保健委員か何かか奴は」
あはは!とまた明るい笑い声が生まれる。でも、私は今それどころじゃなかった。
今気づいた事実が衝撃的だったのだ。もう深く繋がりのある関係の様な気持ちで、心の支えにして、結城君に頼り切った私がいる。結城君のおかげで今、私はここで上手く息をする事が出来ているのに。
私、結城君の事何も知らないんだ。
「気になんの? あいつの事」
その穂乃果ちゃんの質問は私に向けられていた。ぴたりと口を閉じたみんなも私の方を向いている。
どうしよう、どうしようと、きっと昨日までの私は慌ててしまって、何を答えれば正解か探って、ぐるぐる考え過ぎて自分が嫌いになって体調が悪くなっていたかもしれない。
——でも、
「……うん」
今日の私はその問いに一つ、うんと頷く事が出来た。
なんでだろう……いや、なんでも何もない。だってそれが自分の本当の気持ちだからだ。
結城君が気になる。
私をいつも助けてくれる、私の知らない結城君。留年してて、本当は真面目で、でも派手な友達がいた結城君。友達の退学がきっかけで可笑しくなった結城君。
結城君は、私が思っているより遠くに居る。
離れた所から私に声をかけてくれている。
もっと側に、隣に居ると思ってたのに。
「聞いてあげよっか、私。澪の代わりに」
その提案に、声の主である穂乃果ちゃんにハッと目をやると、穂乃果ちゃんは、「澪、そういうの苦手でしょ?」とニッコリ笑って言った。
それは、私の代わりに結城君の情報を集めてくれるって事? それとも直接本人に聞いてくれるって事?
「……ううん、大丈夫。自分で聞く」
そして、「ありがとう」と穂乃果ちゃんに告げると、穂乃果ちゃんは、「そ」と、つまらなそうに、どこか不満げにこの話題を終えて、「そういえばこのあいださー」と、気まずくなる前に別の話題に切り替わった。
あれ? なんで穂乃果ちゃんちょっと嫌そうだったんだろう……。
いつものあっさりと興味を失った感じにも見えなくはないけれど、どこか機嫌を損ねた感じもした。
それを感じ取ると、じわっと冷や汗が滲み出す感覚がする。
私、間違えちゃったのかも……?
いや、でも結城君の事気になるけど自分で聞けないから友達に聞かせるって、そんなの小学生のやる事じゃん……。
そうだよ、流石にそれはないと納得してみた時、キーンコーンカーンコーンと、学校生活が始まるチャイムが鳴った。



