目を覚ますと、ついに見慣れてしまった保健室の天井があって、慣れた動きで上履きを履いてカーテンを開くと、そこにいた先生と目が合った。
「……穂高さん」
先生は神妙な面持ちで私の名前を呼ぶと、そっとこちらに歩み寄る。
「もしよかったら、心療内科へ行ってみたらどうかなと思うの」
「心療内科……」
「そう。これ以上酷くなる前に何か手立てを打った方が良いと思います。最近の穂高さんは体調がコントロール出来ないくらい悪くなってるでしょう?」
「…………」
いつもとは違う先生の様子に緊張して、真剣に考える。体調がコントロール出来ない事で勧められた病院が心療内科であるという事は。
「私、心の病気って事ですか?」
「それに名前をつけるのは病院の先生の判断なので私からは何も言えないけれど、昨日原因の心当たりの話をしたわよね?」
「…………」
「もちろん無理にとは言わない。でも、それも一つだと思うの。もちろんこうして保健室でお休みしながら頑張るお手伝いもしたいと思ってる。だけど手遅れになってからでは遅いと思うから」
「手遅れになる……」
それってどういう状況の事を指すのだろう。今はまだ手遅れにはなっていないという事? 私の何が手遅れになるの? じゃあ辛く感じる今は? 休んで頑張れてる今は?
「……あの、先生。結城君は?」
「穂高さんを送ってから教室へ行ったけど、どうしたの?」
「……いえ、その……あの……」
結城君じゃなくて先生に話せばいい。今日どんな事があってこんな事になったのか。なんで私は今ここに居るのか。どんな気持ちで、どう頑張ってここに居るのか。
本当は、今ここに居るのだって頑張った結果で、辛いのもここに来れたから今は楽になって、だけど先生からしたらこうして具合が悪くなる私がずっとここに居るのは迷惑で、治す為に何かを始めなくちゃならなくて、病人の私は学校にも来ちゃいけなくて——……やばい、頭の前の方が気持ち悪くなってきた。
ぐるぐる、ゆらゆら、地面が揺れる。どんどん手が冷たくなる。どくどくと心臓の鼓動が耳元で聞こえてくる。
あぁ。私、病気なんだ。本当はここにも来ちゃいけないんだ。
変に頑張らないで大人しく家に帰れば良かった。どうせ帰ったって私が怒られるだけなんだから。
……病院へ行くよう勧められたって言ったらお母さん、何て思うだろう。
その原因が友達関係だなんて、お母さんは受け入れてくれる?
——でも、もうここには居られない。
「……わ、かりました。病院、考えてみます」
駄目だ、無理だ、もうここにも居られない。
「帰ります。すみません。早退しても良いですか」
「もちろん良いけど、大丈夫? 顔色が悪いわ」
「平気です。大丈夫」
大丈夫、大丈夫。私は大丈夫。
……何が大丈夫?
分からない。分からないよ、どうしよう。いつからこうなっちゃったんだろう。いつもの私はどこ? 本当の私はどこ?
私って何?
その時。ガラリとドアが開く音がして、すたすたと誰かがこちらにやってくる気配がしたけどそれを確認する余裕すら持てないでいると、急に名前が呼ばれた。
「穂高さん」
ハッと顔を上げる。だって結城君の声だったから。結城君が、来てくれたから。
「……穂高さん」
先生は神妙な面持ちで私の名前を呼ぶと、そっとこちらに歩み寄る。
「もしよかったら、心療内科へ行ってみたらどうかなと思うの」
「心療内科……」
「そう。これ以上酷くなる前に何か手立てを打った方が良いと思います。最近の穂高さんは体調がコントロール出来ないくらい悪くなってるでしょう?」
「…………」
いつもとは違う先生の様子に緊張して、真剣に考える。体調がコントロール出来ない事で勧められた病院が心療内科であるという事は。
「私、心の病気って事ですか?」
「それに名前をつけるのは病院の先生の判断なので私からは何も言えないけれど、昨日原因の心当たりの話をしたわよね?」
「…………」
「もちろん無理にとは言わない。でも、それも一つだと思うの。もちろんこうして保健室でお休みしながら頑張るお手伝いもしたいと思ってる。だけど手遅れになってからでは遅いと思うから」
「手遅れになる……」
それってどういう状況の事を指すのだろう。今はまだ手遅れにはなっていないという事? 私の何が手遅れになるの? じゃあ辛く感じる今は? 休んで頑張れてる今は?
「……あの、先生。結城君は?」
「穂高さんを送ってから教室へ行ったけど、どうしたの?」
「……いえ、その……あの……」
結城君じゃなくて先生に話せばいい。今日どんな事があってこんな事になったのか。なんで私は今ここに居るのか。どんな気持ちで、どう頑張ってここに居るのか。
本当は、今ここに居るのだって頑張った結果で、辛いのもここに来れたから今は楽になって、だけど先生からしたらこうして具合が悪くなる私がずっとここに居るのは迷惑で、治す為に何かを始めなくちゃならなくて、病人の私は学校にも来ちゃいけなくて——……やばい、頭の前の方が気持ち悪くなってきた。
ぐるぐる、ゆらゆら、地面が揺れる。どんどん手が冷たくなる。どくどくと心臓の鼓動が耳元で聞こえてくる。
あぁ。私、病気なんだ。本当はここにも来ちゃいけないんだ。
変に頑張らないで大人しく家に帰れば良かった。どうせ帰ったって私が怒られるだけなんだから。
……病院へ行くよう勧められたって言ったらお母さん、何て思うだろう。
その原因が友達関係だなんて、お母さんは受け入れてくれる?
——でも、もうここには居られない。
「……わ、かりました。病院、考えてみます」
駄目だ、無理だ、もうここにも居られない。
「帰ります。すみません。早退しても良いですか」
「もちろん良いけど、大丈夫? 顔色が悪いわ」
「平気です。大丈夫」
大丈夫、大丈夫。私は大丈夫。
……何が大丈夫?
分からない。分からないよ、どうしよう。いつからこうなっちゃったんだろう。いつもの私はどこ? 本当の私はどこ?
私って何?
その時。ガラリとドアが開く音がして、すたすたと誰かがこちらにやってくる気配がしたけどそれを確認する余裕すら持てないでいると、急に名前が呼ばれた。
「穂高さん」
ハッと顔を上げる。だって結城君の声だったから。結城君が、来てくれたから。



