「………でも、どうすればいいのか分からない」
「何で?」
「だって私は私だから、何をしたって悪い方にしか進めない」
「と、頑なになっていると」
「…………」

 馬鹿にしてるのかと睨みつけると、至って真面目な顔で私を見つめる結城君がそこに居る事に気がついた。
 思わず息をのむ私に、結城君は「なるほどな」と呟くと、「穂高さんは自分に厳しいんだろうね」と頷く。

「少し力を抜いたら良いよ」
「力を抜くって……力が入ってるのかも自分ではよく分からない」
「真面目だなぁ、俺みたい」
「…………」

 どこがだよと、揶揄われている様にも思えたその言葉も、その真剣な表情と瞳を見せられたら、どう考えても結城君から本気で告げられたものなのだと受け取る事しか出来なくて。

「そういう時は少し悪い事をしてみるんだよ」
「……悪い事?」
「そ。勇気がいるかもしれないけど、案外簡単だからやってみると良いと思う。こうしなきゃいけないの、逆側を」
「…………」
「つまり今で言うなら、家に帰るか保健室へ行くかだね」

 なんて、真面目な顔をしてそんな事を言うものだから、心が動いた。

「……保健室で一回休もうかな」

 信じてみようと思ったんだ。だからその提案を受け入れて、自分のやるべき事から逃げてみた。すると心はすっとそれを受け入れて、あぁ、身体の方はもう疲れ切っていたんだなと気がついた。
 頭ではいけない事だとか、そんな事したらこの後また教室でみんなと何かあるかもとか、色々嫌な考えが生まれてぐるぐるしたけれど、保健室について先生に受け入れられるとその全てはあっという間にどこかへいなくなった。
 ベッドに横になると全てのしがらみを手放して、瞬間的にぐっすりと眠りにつけたのだった。