本当だ。体調が悪いのにわざわざ無理して学校に来る事なかったんだ。だってその方が色んな人に迷惑掛けるし、それが結局みんなからどうしたのか聞かれて自分の首を絞める事になる……でも、

「来ちゃったから、帰れない」
「いや帰りなよ」
「無理だよ。怒られるし」
「誰に?」
「お母さん」
「は……?」

 そうだよ。帰ったらまた何か言われるはずだ。私がちゃんとしていないから。だから私が私でいると人を嫌な気持ちにさせるんだ。人に合わせた自分でいれば、求められる事をちゃんと出来ていれば、お母さんにも、みんなにも、穂乃果ちゃんにも、それだけでいいはずなのに私が欲張り出したから——。

「もういい。保健室行くよ」
「い、いいっ。大丈夫」
「大丈夫じゃないから声掛けたんだろ」
「でも最近行き過ぎてるし、出席も取らないで行きたくない」
「じゃあ教室行ってダメだったら行くって事でいい?」
「うん」
「本当に大丈夫なの?」
「うん」

 大丈夫、大丈夫。出来る。ちゃんと出来る。もう自分の気持ちを消してしまおう。そうすればこうやって体調が悪くなる事もなくなるはずだ。だって今までずっと大丈夫だったんだから。

「——あのさ!」

 一段張り上げた声に、自分の中に引きこっていた意識が持っていかれる。俯いた私を覗きこむ様にしてこちらを見る、真っ直ぐな結城君の瞳がそこにあった。

「自分から縛られにいってない?」
「……何に?」
「しがらみに。それで悪い方に突き進んでない?」
「…………」

 結城君に言われてハッとした。……その通りだった。考え事がどろどろと纏わりついて押し潰されそうで、どうすればいいのか今すぐ答えを出そうともがいてもがいて、息苦しさに手を離してしまおうと、心なんて捨ててしまおうと、今、決めた所だった。

 心臓がどくどくと嫌に大きく動いていて、走った後みたいに息が落ち着かない。頭の奥は不規則に動く振り子にぐらぐらと振り回されている様で、こめかみの辺りがぎゅっと締め付けられる様に痛かった。
 これはあの前兆だ。結城君の言う通り、悪い方に突き進んでいる。それも全て、私の選択が間違いだから。