「こんな気持ち……結城君には分からないんだろうな」

 まだ少ししか話した事はないけど、結城君にはなんでもスパッと割り切れそうな、しがらみに囚われない人なんだろうなと感じていた。自分は自分で他人は他人と分けられる、強い人なんだろうなと。自分に自信があるのだと。じゃないとあんなに自由に振る舞える訳がない。
 ……だけど、そんな人なのに私に気付いてくれる。他人の繊細な機微が分かる観察力と、そこから動き出す行動力を兼ね備えていて、言葉にして他人に伝える事にも躊躇いがない。

 ……あれ? もしかして結城君って穂乃果ちゃんに似てる? ——いやでも、結城君はリーダーになる様なタイプじゃないし。ちょっと嫌味な感じも入ってるし、実際真面目に授業を受けてるのかもよく分からない人だし。
 ……だけど、私を何度も助けてくれたのも本当で。

「…………」

 結城君だったら、どう思うのかな。結城君はどんな人に憧れるんだろう。

「……私みたいな人じゃない事だけは分かる」

 縁切る様な奴に憧れる私の事を、きっと結城君は嫌うだろう。だってあの時の結城君は意味が分からないって顔をしていたから。

 ——なんだか心がぞわぞわする。早く寝よう、寝た方が良いに決まってるのに……今日もきっと、眠れそうにない。



 ついさっき寝たばかりな気もするし、そもそも寝てすらいない様な気もする。睡眠不足の朝はいつもそうだ。ぼんやりとして、ぐったりとして、頭の奥の方がねっとりと重く感じる。出された朝ご飯を食べる事すら億劫だった。
 それを見逃さないのは、やっぱりお母さんである。

「あんた、最近ちゃんと寝てる?」

 お母さんの鋭い指摘が入る。
 それに重たい頭で「……寝れてないかも」と答えると、お母さんは目を見開いてスイッチを入れた。あ、やっちゃったと思ってももう遅い。

「! なんで? また遅くまでスマホ見てるんでしょ? 寝る前のスマホはダメだってあれほど言ったのに!」
「…………」
「いつもそうよねあんたは! いつになったら自分の事ちゃんと出来る様になるの? そんな事で病気になったらどうするの!」
「…………」
「お母さん今日も仕事あるからね! 休めないからね! ちゃんと自己管理しなさいよ!」
「…………」
「分かったの⁉︎」
「……分かった」

 マシンガンの様に放たれる怒ったお母さんの声がうるさい。寝れてないと言っただけでここまで一気に怒られるなんて誰が思う?

「もう〜、本当いつも口ばっか。言うのは簡単なんだからね。行動しなさいよ行動」と、ぶつぶつ言いながら洗濯物を干しに行くお母さんの後ろ姿を見送って、小さく溜息をついた。なんだか食べる気力も失ってしまい、そっとお箸を置く。