もし、私がいつもの様に話を振られた時にこういう話題は嫌なのだと口にしたら。
 きっとその瞬間、その場の空気が固まり、途端にたくさんの冷え切った視線に囲まれてしまうのだろう。あるいは怒りを含んだ熱く激しいものなのかも。どちらにせよ私の一言で今までの積み上げてきた信頼とか結束みたいなものを壊してしまう事は明らかで、簡単に想像がつくものだった。

 ……でも、穂乃果ちゃんは?

 穂乃果ちゃんは一体、どんな反応を返すのだろう。やっぱり同じ様に嫌な顔をする? それとも裏切られたって怒りだす? 逆に私の事なんて興味が無くなった様に知らない顔をする?
 それが澪だよねって、笑って受け入れてくれる?

 思い当たるその全てが穂乃果ちゃんで、どの穂乃果ちゃんでも私の好きな穂乃果ちゃんに間違い無かった。私にとっての穂乃果ちゃんはそれらのどの反応でも穂乃果ちゃんならそうなるよね、と思えてしまうのだ。でもそうなると、結局話は振り出しに戻ってしまう。

 『穂高さんはそんな事で縁切る奴に憧れんの?』

 もちろん、そんな事で縁を切らない穂乃果ちゃんであってくれたら嬉しい。考えた事もなかったけど、結城君の言葉で穂乃果ちゃんだったらそうかもしれないという期待もちょっぴり心の中に生まれてきてしまっている。
 けれど、きっとそうだと手放しに信じる様な事は出来なかった。だってそれも穂乃果ちゃんだから。強くてさっぱりとして尖ったみんなが憧れる穂乃果ちゃん。“だったら抜ければ?”なんてあっさり言われる現実も、何も言われないままその瞳に映らなくなる未来も、全て本物の様に思えてしまう。

「……今日も疲れた」

 ボフッとベッドに倒れ込む。すでに時刻は二十三時を過ぎていた。つい考え事をして長くお風呂に入ってしまうとあっという間に就寝時間がやって来る。最近ではそれを繰り返す毎日で、ここから眠りにつくまでもまだかかるのだと知っていた。

「……きっと縁を切られても好きなんだろうな」

 なんで?と聞かれても分からないけど、それだけは私の中で間違いないと思える答えだった。なんでだろう、自分でも分からない。そんな奴、と言われる意味は分かるし、そんな事になったら傷つくし悲しいけど、それでも穂乃果ちゃんと仲良くなりたいとずっと思い続ける自分の姿が目に見える様だった。
 もちろん、仲良くしてくれる人みんなに思う訳じゃない。きっと私は他の人にそう思えなくても、穂乃果ちゃんにだけは思ってしまう。
 だって、穂乃果ちゃんだから私は憧れたんだ。
 憧れる彼女が選んだ選択なら、それは私の知らない正しい選択なんだと受け入れられる。だって私達は正反対なのだから。