——けれど、そうもいかないもので。
 ご飯を食べ終わった頃にはやっぱり始まった、いつもの尖った話題。

「隣のクラスのヤバい女、知ってる?」
「高橋の元カノだ」
「それ。束縛ヤバいんだってね。つーかメンヘラ?」
「え? あの見た目で?」
「だよね。頼んだら履歴見せてくれたんだけどマジ恐怖だったよ。本物じゃんって言ったら高橋笑ってた」
「でも元カノって事は今は別れてるんだよね?」
「だから履歴見せたんじゃん? 知らんけど。フツー見せらんないでしょ」
「きっと成仏させたかったんだね、高橋も」

 そして、あーわかる〜という空気の中、私はまた自分の中の気持ちとの違いに心がぎゅっと潰される思いだった。
 内容が酷い。あの見た目で?って何。普通他人のメッセージ履歴見せてなんて頼まないでしょ……それで見せる彼氏も彼氏だし。彼女だけが悪かったとは到底思えないんだけど。

「で、高橋もう彼女いんだけど元カノ激おこらしい」
「怖〜っ、見た目と中身磨いて出直してどうぞ」

 あー、どうしようもなく嫌で仕方ない。なんでこんな話で楽しそうに盛り上がれるんだろう。誰かを悪く言って下に見て自分が上に居る気分に浸ってるの? それってそんなに気持ちが良いのかな。
 私はいつもそれに同意する度に落ちていく気分になる。自分はどうしようもなく悪い人間だと自覚するその瞬間が吐きそうなほどに気持ち悪いし、そこでそんな事思わないと否定出来ない自分に絶望感すら抱くのに。

「澪? なんか暗くない?」
「!」

 穂乃果ちゃんは笑って聞いていた。つまり穂乃果ちゃんのルールの中ではこれは間違って無いという事。そうなると今このグループの中で間違っているのは私の方で……。

「……そ、そんな事ないよ」

 嫌われたくなくて誤魔化す事しか出来ない、どうしようもない私。ひたすら駄目で、気持ち悪い私。それが今日も顔を出す。知らしめられる、自分自身に。自分がどれだけ嫌な奴なのかを。

 ——ヤバい、さっきから心臓が大きく動いてる。
 
すっと冷え始めた指先を両手で擦り合わせるけれど冷たいもの同士で温まる訳が無い。頭の前の方が重くなって、いよいよ怪しくなってきた。呼吸が浅くなってきたのが自分でもわかる。
 ここを、離れないと。

「ちょ、ちょっと私行ってくる」
「? どこに? ついてくよ」
「いいの! いいっ、」
「でもなんか変じゃない? 大丈夫?」

 どうしよう……どうしよう!

「穂高さん、先生が話あるって」
「!」