「あいつ謎だよね、これだけ自由にやってんのに先生もちょっと注意するだけだし。うちの学校割とゆるい方ではあるけど」
「うん……」
「それにしても澪、なんか急に絡み増えたよね? 無理矢理言う事聞かされたりとかしてない? 大丈夫?」
「ないない、大丈夫」
「そう? じゃあ澪の体調は? もう大丈夫なの?」
「うん。今は何ともないから平気だよ」

「それなら良いんだけど」と、穂乃果ちゃん。その後他のみんなと違って変にその話題を引き伸ばしたり、掘り起こしたりなんてしない穂乃果ちゃんは、本当に心配して話題に出しただけらしくて、そのさっぱりした所は私の好きな穂乃果ちゃんらしさだった。
 穂乃果ちゃんは強くて芯のある人。だから心を切り替えるのが上手くて、自分と関係がなくなった事には興味も示さない。

「穂乃果ちゃん、次小テストなの知ってた?」
「あ、だからみんな席座ってんのか!」
「あと宿題もある」
「嘘でしょ……?」

 慌ててプリントを出した穂乃果ちゃんがどんどんプリントを埋めていく。やってきてはいないけど、わからなくて出来ない訳じゃ無い。ただそれの優先順位が自分のやりたい事と比べて低いだけ、というのが穂乃果ちゃんの考え方。
 私はその反対で、やるべき事をやらないと自分のやりたい事は出来ないという考え方をするタイプ。穂乃果ちゃんと私は正反対な存在だった。
 そんな穂乃果ちゃんは私にとっていつも眩しい。惹きつけられる何かがあって、憧れると同時に羨ましく思う。だから穂乃果ちゃんの周りには穂乃果ちゃんの強さに憧れる人が集まるし、根暗ではっきりしない私みたいな人間が居るはずのないグループが作られていったのだ。

 ——そう。私に穂乃果ちゃん達のグループは合っていない。だから辛い気持ちになるし、みんなの事が嫌いだ、なんて嫌な考えに辿り着いて、結果自分が一番悪くて嫌な奴なのだという現実と向き合う事になる。
 嫌だ嫌だの繰り返し。周りに合わせて言葉を発するハリボテの私でしか居られない、息苦しい毎日を繰り返していても、そうなるのだとわかっていても、私の中にここを飛び出す勇気は無いし、抜け出そうと思い切る気持ちまでは湧いてこなかった。……なぜなら。

「なんかさ、いつも澪にこうやって助けてもらってるよね。ありがと」

 なんとか授業が始まる前に自力でプリントを埋め終えた穂乃果ちゃんが、私を見て言う。

「澪が困った時は私に言ってね。なんてったって高校入って初友だからね、私達」

 ニカっと明るく笑ってそんな事を言ってくれる穂乃果ちゃんの事が、私は大好きだから。ちゃんと覚えていてくれて、ちゃんと言葉にしてくれて、そんな気遣いが自然と人に出来る人。そうする事で周りを元気をにする事が出来る、私の憧れの穂乃果ちゃん。