教室へ戻ったのは体育の授業が終わってからの事。結城君は言葉の通りに私を一人にするつもりは無いらしく、一緒に次の授業へ戻る為に教室まで着いてきてくれた。
 幸い、穂乃果ちゃん達は着替える為に更衣室へ寄っていたので私達二人が帰ってきた所を目撃される事はなく、色々聞かれてパニックになる様な事は起こらなかった。彼女達が戻ってくる頃には授業が始まり、ほっと身体の力を抜いて一息つく。

 何を聞かれるだろう。何て答えれば良いのだろう。そんな事をぐるぐる考えていた私の指先はとても冷たい。そういえば結城君は大丈夫なのだろうかと、チラリと廊下側の一番後ろの席に着く彼の様子を窺うと、机に伏せてじっと動かないいつも通りの彼の姿がそこにあった。

 これは体調が悪くて伏せてるって事なのかな。話してる時の結城君はそんな風に見えなかったけど、保健室で会った結城君は本当に調子が悪そうだったし……。

 ……それでも、授業に出ているのだから彼の中の限界が来ていないという事だろう。そう自分を納得させて前へ向き直り授業に集中する事にする。それから二十分ほど経った頃にもう一度目を向けてみると、そこに彼の姿は無かった。
 授業中に急に居なくなるのもよくある結城君の行動だから、それに対して気に留める人は居ない。私もその一人だった。でも、今は違う。

 さっきまで元気だったのに、どうしたんだろう。やっぱり体調悪かったのかな。また保健室に行ってる?

 心がザワザワして集中出来ず、その後の授業は気持ち半分で受ける事となってしまった。



「何? アイツまた居ないの?」

 授業が終わると隣の穂乃果ちゃんが私の視線の先を辿って言う。探しに行こうかなと頭を過った瞬間だったので、そんなにバレバレな態度だったのかと内心焦ったけれど、落ち着いた素振りを装って「そうみたい」なんて答える。