「俺さ、過呼吸の原因なんて分かんない方が良いと思ったんだ」

 並んで歩く隣から、ふと告げられたそれ。過呼吸の原因。体調が可笑しくなるきっかけ。私には分からないその前触れが分かる彼。

「知らないまま忘れれば、その一回で終わるんじゃないかと思ってさ。変に意識してると起こりやすくなるし、それ繰り返して慢性的なものになったらそれこそ大変だし。結局メンタル的な物の対応策で最強なのは忘れる事だから」
「…………」
「でも、朝の時と今の様子見てると、穂高さんの場合意識してなくても原因が側にあって、何度も起こる可能性が高いんだなって。慢性的になってしまう気配があるんなら、トリガーが何か自分で分かった方が良いのかもしれないと思うんだけど……」
「…………」
「……なんとなく、俺の言ってる意味分かる?」

 真面目な顔をした結城君が私を見つめて訊ねてくる。私の体調不良のきっかけ……こんな風に話して貰って、今の自分の状態を見て、今日の出来事を振り返ればもう、私にも思い当たる節があった。

「……私にとって、どうしようもないくらい嫌な気持ちになった時……というか、なんか、追い詰められた様な気持ちの時、こう、心臓がドキドキして、身体がぎゅっと強張って、なんか変な感じになるの。それかなと思う」
「うん」
「最近悩み事があって……それについて考えるとどうしても辛くて、それが今は友達の事が多いから、だからかなって」

 昨日までは、寝不足かなと思えた出来事。でも今日起こった出来事は昨日までの自分には無い反応で、それがとても怖かった。自分の身体が可笑しくなってしまったんじゃないかって、もう前の自分には戻れないんじゃないかって……でも、もしそのきっかけが自分の気持ちに寄るものなら、それらの全ては繋がっていて、正しく私に起こるべくして起こった事となる。
 そうなれば、きっと対処法があるはずで、きっと結城君は知っているのだろう。

「……これからもずっとこうなるの?」

 保健室が見えてきて、ノックもせずに入室する結城君の後に続く。どうやら先生は不在の様だったけど、勝手知ったる様子で彼はずかずかとデスクの前の椅子に座ると、その隣にある丸椅子に私を座らせた。

「いや、ちゃんと対処すれば大丈夫」
「ちゃんとって?」
「例えば、きっかけを遠ざけるとか」
「…………」