「大丈夫? 気持ち悪い?」
「…………」

 俯いて喋らない結城君の顔を覗き込む。彼の様子に、保健室まで歩けるかどうかすら心配になった。私に声を掛けるくらいだ、相当辛いのかもしれない……それこそ、今にも気絶しそうなくらい……。

「……え」

 しかし、それは私の杞憂に終わった。そこにはじわりと口角を上げた、したり顔の彼の表情があったから。

 微笑む結城君と私の目がぴたりと合う。
 
「え、体調は?」

 まず思ったのはそれ。そして次に思ったのは、

「まさか、サボる為の嘘?」

 ガラガラガラ、心の中の積み上がった何かが音をたてて崩れ落ちていくのを感じた。
 なんだ。本当は何か訳があって、本当に困ってる人で、実は普通に優しい人なんじゃないかって思ったのに……私の事を少しでも頼りに思ってくれたから、だからついて来てって、お願いされたと思ったのに。

 ……私はただ、利用されただけか。

「……戻るね」

 最低な気持ちで体育館へ引き返そうとすると、手を取られて引き止められる。それがすごく鬱陶しくて振り払おうと振り返ると、

「じゃあ俺も戻る」
「……は?」 

 そこには、真面目な顔してそんな事を言う彼が居た。

「いや、意味分かんないし」
「だから、穂高さんが戻るなら俺も戻る」
「それの意味が分かんないんだってば。言ってる事とやってる事めちゃくちゃじゃん」

 本当に、理解が出来ない。一体どういうつもりでこの人はこんな事を言っているのか、その目的が分からない。このやり取りの正解が見えない。

「結局結城君は元気なの? どうなの?」
「俺は今わりと平気。そっちは?」
「そっちは?って、私は別に平気だって、」
「でもすっごく辛そうだったけど。もしかしてあの人達が関係してる?」
「!」