そして、「そうそう、それが良いよ」と頷く彼と共に、そのまま体育館へと向かう事になった。
 到着すると、すでに集まっていたクラスメイト達の横を通り過ぎて、体育の先生へ現状を説明する。加えて見学させて貰いたい旨を伝えると、すんなりと受け入れられて、ステージの前の端っこに座るよう指示された。

「うわ、体育館暑っ……」

 言われた通り大人しく座った私の隣に、何故か腰を下ろしたのはげんなりとした表情をしている結城君。……え、なんで?

「あの……」
「……ん?」
「結城君も、見学?」

 嫌な気持ちにさせない様に遠慮がちに訊ねてみると、私の質問に特に何も感じていない様子で結城君は、「うん」と頷いた。でも保健室に来たばかりの結城君はすごく怠そうで、暑い体育館に居るのは辛そうに思うけど……普段からあんまり授業も出て無いし、見学なのも珍しい。

「結城君も体調悪いんだよね? 大丈夫?」
「うーん、それが今は悪いといえば悪いけど、悪くないといえば悪くない……」
「?」

 それはどういう状態なんだろう……と考えていると、結城君は、「まぁ、もしかしたらまた保健室行くかも」なんて続ける。

「え、それは体調悪いんじゃないの?」
「うん。でも今は平気だから。もしかしたら使命感で気が紛れてるんだと思う」
「?」

 もう、何が何やらさっぱりだった。

 初めてこんなに長く話しているうちに、結城君という人はとても不思議な人だなというイメージに変わっていた。
 すぐ保健室に向かう彼に対してただのサボりだと思っていたけれど、先生達の反応を見ていると彼の我儘ではなく、本当に何かの事情がある様に感じる。じゃなきゃ体育の先生がこんなに簡単に見学を許す事は無いし、保健室の先生だって何かの訳を知っていそうに見えたから。

「そっちは? 大丈夫?」
「あ、うん。平気」

 それに、なんでこんなに私の体調を気にしてくれるんだろう。昨日までは完全に初対面の赤の他人。むしろ嫌味を言われたくらいの関係だったのに。今は隣に座ってお互いを気にかける言葉を口にしている。それは昨日までの私には想像する事も無かった未来で、紛れもなく今現実で起こっている事だった。

 号令が掛かり、授業が始まる。今日の授業はバレーボール。適当に自分達で六人ずつのチームを作ると、試合が始まった。穂乃果ちゃん達は私がいない分、いつものメンバーでは一人足りない所に、「バレー部の人入ってよ〜」と、お願いして入って貰っていた為、経験者の居るチームはすごくやり易そうだった。
 それを私は黙って見つめていて、隣の結城君も特に何か声を掛けてくる事は無かった。そのうちにピーッと笛の音が鳴り、試合をするチームが入れ替わる。すると、彼女達はぞろぞろと私の方へやって来て、その時何故か私の身体にぎゅっと身構える様にと力こもる。