「何、どうしたの! 大丈夫?」

 保健室のドアを開くと、先生は慌てて私に近寄ってきて、そのまま結城君に昨日と同じベッドに私を寝かせる様指示を出し、その通りに結城君は私をベッドへ寝かせてくれた。
 そうしている間に先生はバインダーに書類を挟むと椅子をベッドの側に置き、そこに座って何が起こったのか、今までにもこういった経験はあるのか、どんな状況で起こったのかなど、次々に私に質問をしていった。
 疲れてはいるものの、歩いている中でだいぶ落ち着きを取り戻していたので、その質問の一つ一つにゆっくり答えていく。さっきまであんなに辛かったのに今はもう不調を感じる部分は見当たらなくなっていて、なんだったんだろうと不思議に思うくらいだった。

「過呼吸ね……これっきりだと良いんだけど」
「過呼吸?」
「そう。思い当たる節はある?」
「思い当たる節っていうのは……?」
「過呼吸になった原因について身に覚えはある?って事かな。最近悩んでるとか、寝れないとか、嫌な事が起こった、とか。肉体疲労でも起こるけど、大体は精神的なものによる事が多いの」
「…………」

 ドキッとした。精神的なものによるって、まさか……。

「まぁ、いいんじゃない? 今すぐ探んなくても」

 また心臓がうるさくなってきたなと感じたその時、話の流れを遮る様に丸椅子に座る結城君が口を開く。

「たまたま体調が悪かっただけかもしれないし。昨日も保健室来てたよな?」
「あ、うん……」
「だから、沢山食べて沢山寝れば大丈夫。ちゃんと元気になった頃にはきっと忘れてるって。しっかり自律神経整えてさ」
「…………」
「忘れな。ね? たまたま運が悪かったんだよ。大丈夫だから」
「……うん」

 そして、「おやすみー」と、彼がカーテンを閉めた事で、無理矢理感はあるにしろ、とりあえずといった感じでこの話は終わった。

 ふう……と、先ほど散々吸って吐いた息をもう一度大きく吐き切る。
 びっくりした。こんな事は初めてだった。あまりにも苦しくて、辛くて、もう二度と起こって欲しく無いと思った。これが過呼吸か……知識の中にはあったものの、いざ自分が体験するとなると頭がグチャグチャで何も出来なかった。
 本当に、このまま自分はどうにかなってしまうのかと……すごく怖かった。

 だから、パニックの渦に飲まれる中に聞こえてきた結城君の声には本当に助けられた。本当に、本当に救われたのだ。あの時あの場に彼が居なかったら私はどうなっていたのだろう……あ、そういえばお礼、まだ言えてない!

 シャッと勢いよくカーテンを開けた。まだそこに彼は居るだろうと思ったから。……けれど。

「? 穂高さん、どうしたの?」

 そこに居たのは、机に向かって座っている先生ただ一人。