今日もまたよい目覚めだった。何も食べなくても体は軽い。この世界は怖いほど自由で眠らなくても、エネルギーを摂取しなくても何処まででも走っていけるような気がした。そんな中で私が毎日寝るのは、目覚めた時の朝日が好きだからだ。

「うう……ん。今日は何をしよう」

窓から外の世界を見た。小さいようで広い。きっと1週間あっても全てはまわれないであろうほどの広大な土地に、繁華街らしきもの、木々が生い茂る森、その奥にはお城のような礼拝堂が隠れるように建っている。
とりあえず今日はこの私が今住んでいる建物の間取りを確認しよう。外の世界だって広いが、この建物も昨日の廊下を思い出す限りかなり広いはずだ。
青が滲むお気に入りのワンピースに着替えると、そっと部屋を出た。両隣には同じような間隔で6つドアが並んでおり、向かい側も同じみたいだ。ところどころネームプレートが掛けられていて、その部屋の住人らしき名前が綴られている。
突き当りのリネン室を曲がると、立派な階段を見つけた。私は天窓から降り注がれる光に導かれるように一歩一歩進んでいく。すると、一際豪華なドアを見つけた。

「お、おじゃましまぁす」

念のためノックと挨拶をしてノブを引く。私は目の前に広がる光景に目を疑った。

「ひ、広い‼しかも、本がいっぱいだ‼」

大量の本が丁寧に収納されたそれは、さながら「本の森」だった。丸形テーブルや、座り心地のよさそうな革のソファがオシャレに配置されていたり、観葉植物がカウンターテーブルに置いてあったり……。時々鼻腔をくすぐる花の香りや、その場の雰囲気がとても好きだなと思った。

「あれ~?」

ふと何処からか声がして辺りを見回す。けれど声の主の姿はどこにもない。慌てふためく私を見たのか、今度はけらけらと笑う声が聞こえた。

「ここだよ、ふふ」
「どっ、ドコデショウ……?」
「上だよ、上」

顔をガバッとあげると、上の方にある窓の縁に少年が座っていた。レモンイエローの髪の毛は光に透けて神秘的な雰囲気を醸し出す。

「ビックリした……!」
「驚かせてごめんね。反応が面白くてつい……」

頭上から飛び降りてきた少年は、私に歩み寄る。警戒心が一切ない穏やかな顔の人だった。

「はじめまして、新人さん」
「ははははははじめまして!!」
「はは、元気だねぇ~。でも元気な子、大歓迎だよ」

人当たりのよさそうな笑顔を向けてくれる少年に、私も警戒心を緩めた。名前を尋ねると、彼は陽翔と言うらしい。陽翔はこの世界に少し前から住み始めたこと、この世界では何処に行っても何をしても誰にも咎められないこと、ただしこのことについてあまり深く考えすぎない方がよいことを教えてくれた。

「僕は基本日向にいるから、晴れた日の窓際を見つけたらまた僕のこと思い出してよ。またむすびちゃんとお話ししたい」
「私もあなたといっぱいお話ししたいよ!それに日向が好きだから、窓際にいたの?」
「うん、それにこの窓からは庭の薔薇が良く見えるからね。庭の薔薇は僕がたまに手入れしているんだ」
「わぁ!それは素敵だね!また見に行ってみるね」

彼の瞳に私の綻ぶ顔がキラキラと反射した。陽翔は驚いて目を瞬かせたあと、ゆっくりと破顔した。穏やかで優しくてしっかり者で、初めに出会えた住人が陽翔で本当に良かった。

「色々教えてくれてありがとう‼じゃあ明日にでも外に探索しに行ってみようかなぁ」
「それはいいねぇ~!むすびちゃんはもう他の住人さんには会った?」
「ううん!!あなたが初めて!」
「色々なところに行くといいよ~。住人さんは基本外出しているからねぇ」

ばいばーいと手を振り合った後、私は部屋に戻った。自分の部屋だと認識するなり急に全身の力が抜け、ベットに倒れこむなり咳き込んでしまう。はは、まだ外にもででやしないのにこんな調子か。流石に苦笑してしまった。

「でも、笑顔に出来てよかった……」

あの笑顔が焼き付いて離れない。嬉しかった。こんな私でも誰かを幸せにできたような気がして心があたたかかった。
今日は調子が悪いのでこの辺で終わろう。じゃあ、また。
おやすみ。