目を擦り、枕元にあった携帯を見ると夕方の5時をまわっていた。
大量の食べ物を詰め込んだあと、全身の倦怠感と不快感でソファに横になっているうちに、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
お母さんがそろそろ、帰ってくる。
早く部屋の中を綺麗にしないと。
目の前に広がるゴミの山を見て、自分がさっきとった行動の異常さを再認識させられて、激しい後悔と罪悪感に襲われて消えたくなった。
母は自営業を営んでいる実家の家具屋でパートをしていた。
70年以上経営している家具屋なので、地元ではちょっとした有名なお店。
昭和の頃は景気も良くて、飛ぶように家具も売れていたけれど、最近は昔ほど売れ行きも良くない、と母が悲しそうに呟いていたのを思い出した。
母は仕事帰りにコンビニでエクレアとかケーキとかのスイーツを買ってきてくれる時がたまにあった。
ゆかが絶対に自分では買わないようなお高そうなものばかりで「今日は特別ね」って言いながら、いつも母は嬉しそうにバックからスイーツを出してくれるのだ。
そのスイーツを2人でコーヒーを飲みながら食べる瞬間が、ゆかの中で1番の楽しみ。
母も母なりに気にかけてくれているのだと思う。
ゆかが学校に行っていない、ということは話題にはしないで、いつもテレビの話とか仕事の愚痴とか、そういったものを話題にしてくれる。
もちろんゆかも自分からそういった話を持ち出すことはしないので、2人の中では「学校」という言葉はいつの間にか暗黙の了解でタブーのようになっていた。
その何とも言えない気遣いが、ぎゅっと胸を締め付けて、母に対して申し訳なく思う気持ちがどんどん増してくるのも事実。
「ゴミを早く捨てないと」
ソファの上から身体を起こし、部屋の中をゆっくりと見渡した。
ゴミ屋敷、といった言葉が一番似合っているような気がして、無意識にため息が出た。
母はゆかの異常な食生活を知っている。
知ってはいるけれど、そのことを一切とがめたりすることはない。
きっとゆかが触れてほしくないと思っている、ということを、母なりに感じ取っているのかもしれない。
その優しさがありがたい一方で、自分の不甲斐なさを感じる。
学校にも行かないのに、まともに食事すらできない娘。
そう思うと胸が締め付けられ、息が止まりそうになる。
グチャグチャのパンの袋。
お菓子の袋。
母と祖母に見つかる前に、ゴミ捨てだけは絶対に終わらせなければならない。
フローリングにはさっき食べた菓子パンのものだろうか、チョコチップが散乱していたみたいで、足で踏みつけてしまった。
お気に入りの靴下が、ベトベトになる。
最悪。
足の踏み場がないほど散乱した部屋を、隅々までホウキではわいて、雑巾でふきあげた。
毎日、年末のように大掃除をしているような気分になってしまう。
掃除が終わっても、まだ部屋の中には甘ったるい匂いが充満している。
ケーキ屋さんのような、パン屋さんのような。
そんな甘い匂い。
だけど、今はそんな匂いも、全て消し去ってしまいたい、そう思ってしまう。
窓を開けると、雨は上がっていた。
自分の気持ちも雨みたいに上がればいいのに、とぼんやりと外を眺めながら思った。
大量の食べ物を詰め込んだあと、全身の倦怠感と不快感でソファに横になっているうちに、いつの間にか寝てしまっていたらしい。
お母さんがそろそろ、帰ってくる。
早く部屋の中を綺麗にしないと。
目の前に広がるゴミの山を見て、自分がさっきとった行動の異常さを再認識させられて、激しい後悔と罪悪感に襲われて消えたくなった。
母は自営業を営んでいる実家の家具屋でパートをしていた。
70年以上経営している家具屋なので、地元ではちょっとした有名なお店。
昭和の頃は景気も良くて、飛ぶように家具も売れていたけれど、最近は昔ほど売れ行きも良くない、と母が悲しそうに呟いていたのを思い出した。
母は仕事帰りにコンビニでエクレアとかケーキとかのスイーツを買ってきてくれる時がたまにあった。
ゆかが絶対に自分では買わないようなお高そうなものばかりで「今日は特別ね」って言いながら、いつも母は嬉しそうにバックからスイーツを出してくれるのだ。
そのスイーツを2人でコーヒーを飲みながら食べる瞬間が、ゆかの中で1番の楽しみ。
母も母なりに気にかけてくれているのだと思う。
ゆかが学校に行っていない、ということは話題にはしないで、いつもテレビの話とか仕事の愚痴とか、そういったものを話題にしてくれる。
もちろんゆかも自分からそういった話を持ち出すことはしないので、2人の中では「学校」という言葉はいつの間にか暗黙の了解でタブーのようになっていた。
その何とも言えない気遣いが、ぎゅっと胸を締め付けて、母に対して申し訳なく思う気持ちがどんどん増してくるのも事実。
「ゴミを早く捨てないと」
ソファの上から身体を起こし、部屋の中をゆっくりと見渡した。
ゴミ屋敷、といった言葉が一番似合っているような気がして、無意識にため息が出た。
母はゆかの異常な食生活を知っている。
知ってはいるけれど、そのことを一切とがめたりすることはない。
きっとゆかが触れてほしくないと思っている、ということを、母なりに感じ取っているのかもしれない。
その優しさがありがたい一方で、自分の不甲斐なさを感じる。
学校にも行かないのに、まともに食事すらできない娘。
そう思うと胸が締め付けられ、息が止まりそうになる。
グチャグチャのパンの袋。
お菓子の袋。
母と祖母に見つかる前に、ゴミ捨てだけは絶対に終わらせなければならない。
フローリングにはさっき食べた菓子パンのものだろうか、チョコチップが散乱していたみたいで、足で踏みつけてしまった。
お気に入りの靴下が、ベトベトになる。
最悪。
足の踏み場がないほど散乱した部屋を、隅々までホウキではわいて、雑巾でふきあげた。
毎日、年末のように大掃除をしているような気分になってしまう。
掃除が終わっても、まだ部屋の中には甘ったるい匂いが充満している。
ケーキ屋さんのような、パン屋さんのような。
そんな甘い匂い。
だけど、今はそんな匂いも、全て消し去ってしまいたい、そう思ってしまう。
窓を開けると、雨は上がっていた。
自分の気持ちも雨みたいに上がればいいのに、とぼんやりと外を眺めながら思った。