「ゆかが食器を見たいって言うなんて珍しいね。何か欲しいものでもあるの?」


母と車に乗り込んだゆかは、家から少し離れたショッピングモールへと出かけることにした。

夏休みに入ったということもあり、自転車に乗った子どもや駄菓子屋さんの前に並んでいる子どもがたくさん目にとまる。

朝ごはんの時に母の前で「買い物に行きたい」ってゆかから言い出した時は、ちょっと驚いているようにも見えたけど、その顔は嬉しそうにも見えた。


「あのね、お母さん、聞いて欲しいことがあるの」


ペットボトルに入った麦茶を飲みながら、ゆかは運転する母の方を見た。


「何? どうしたの?」と前を見ている母は不安げな口調で言った。


「お茶碗。みんなと一緒の大きさのお茶碗が欲しいの。あとね、私、2学期になったらまた学校に戻ろうと思うの。心配なこともあるけれど、頑張れる気がするの」


ゆかの気持ちに、もう迷いはなかった。


「大丈夫なの? 無理してない?」

「大丈夫。もう決めたことだから」


母の表情はすぐには笑顔にならなかった。

無理もない、と思うけれど、ゆかはもう心に決めていた。

2学期になったら、ちゃんと学校に行く。

そして、ごはんもみんなみたいに食べる。

自分には今、大切な友だちがいるし、美味しくおやつを食べることができた思い出もある。

大丈夫、ちゃんとやっていける、自分ならできる。

もし嫌になったら、またりえと一緒にお菓子を食べながら悩みを聞いてもらおう。

だから、もう1度頑張ってみようと思う。

母は何も喋らなかったけれど、その瞳にはキラキラと光るものがあることに、すぐにゆかは気がついた。


「お母さん、もう私大丈夫だから。可愛いお茶碗、見つかるといいね」


ゆかは微笑みながら、母に話しかけた。