「今日、うちに来ない?」ってりえに誘われたのは、「あの事件」があって数日経ってからのことだった。
いつも通り公園のベンチでお喋りをしている時に、突然何か思い立ったような顔をしたりえが、隣で足をブラブラとさせているゆかに聞いてきた。
今までずっと一緒には過ごしてはいたけれど、お互いの家とか、家族構成とか詳しい個人情報は何も知らなかった。
だから最初は驚いたけれど、時間だけは有り余るほどたくさんあるので行ってみることにした。
公園の出口を出て、いつも買い物に行くスーパーの前を通って、10分くらい歩いたところにある大きなマンションがりえの家だった。
オートロック式で、防犯カメラが何個もついているのに気がついたゆかは、自分の住んでいる祖母の家と比べてなんだか気が引き締まる思いになった。
「ここの16階が私の家」とりえに言われてついて行った部屋は、ゆかの想像以上に広くて思わず目に入る光景全てに見惚れてしまった。
大きな真っ白なソファーに、綺麗な風景画、小さな花が刺繍されたテーブルクロスは見るからに高そうで、この上でごはんなんか食べられないだろうなってゆかは心の中で呟いた。
「あのね・・・・・・。これ、一緒に食べたいなって思って」
そう言いながらゆかの隣に座ったりえの手には、クッキーの箱があった。
丸くて、真ん中にいちごジャムが入っている、デパートとかで売ってるちょっと高級なやつ。
だけど、そのクッキー以上にゆかはりえが「食べたい」って言ったことの方に驚いた。
だって食べることって怖いんだから。
ゆかは「美味しそう」って笑って言ったけれど、本当は自分も食べるのはとてつもなく怖かった。
いつもちょっとしたことで「悪いスイッチ」が入ってしまって、過食をしてしまうから。
そんな惨めな姿をりえには絶対に見られたくなかった。
「私、お菓子食べるの久しぶりだな」
そう独り言のように呟きながら、りえがお皿の上にクッキーを広げていくのを、隣でゆかは思わず真剣な眼差しで見つめてしまう。
「ゆかちゃんも遠慮しないで食べてね」と言いながら、りえがクッキーを口に運んだのを見て、ゆかも1枚手にした。
「りえ、ありがとう。すっごく美味しい」
友だちと食べるクッキーは甘くて、美味しくて、いつもの悪いスイッチは・・・・・・入らなかった。
イライラも、ソワソワもいつも沸き起こってくるあの嫌な感覚も、そんなの何もなくて、クッキーは本当に心から美味しかった。
「ゆかちゃん、あのね話があるんだけど」
話ってなんだろう、ゆかは突然のりえの発言に胸の奥がザワザワしけれど、冷静を装って聞いた。
「なに? どうしたの?」
「私ねもう1度学校に行ってみようと思うの。頑張ってみようって思うの」
ゆかの目を見つめるりえの瞳は透き通っていて、そこには迷いというものが1ミリも感じられなかった。
「私ね、ゆかちゃんと出会って1人じゃないんだって思えたの。学校でまた嫌な思いすることもあるかもしれないけれど、ゆかちゃんがいるって思うと頑張れる気がするの」
そう言うとりえは、もう1枚クッキーを1口で口の中に入れると、ゆかの方を見てにっこりと微笑んだ。
自分も今まで避けていた「学校」と「食べもの」、その2つを今りえは克服しようとしている、その姿を見ると、自分も変わりたいっていう思いが今まで以上にこみ上げてきた。
いつも通り公園のベンチでお喋りをしている時に、突然何か思い立ったような顔をしたりえが、隣で足をブラブラとさせているゆかに聞いてきた。
今までずっと一緒には過ごしてはいたけれど、お互いの家とか、家族構成とか詳しい個人情報は何も知らなかった。
だから最初は驚いたけれど、時間だけは有り余るほどたくさんあるので行ってみることにした。
公園の出口を出て、いつも買い物に行くスーパーの前を通って、10分くらい歩いたところにある大きなマンションがりえの家だった。
オートロック式で、防犯カメラが何個もついているのに気がついたゆかは、自分の住んでいる祖母の家と比べてなんだか気が引き締まる思いになった。
「ここの16階が私の家」とりえに言われてついて行った部屋は、ゆかの想像以上に広くて思わず目に入る光景全てに見惚れてしまった。
大きな真っ白なソファーに、綺麗な風景画、小さな花が刺繍されたテーブルクロスは見るからに高そうで、この上でごはんなんか食べられないだろうなってゆかは心の中で呟いた。
「あのね・・・・・・。これ、一緒に食べたいなって思って」
そう言いながらゆかの隣に座ったりえの手には、クッキーの箱があった。
丸くて、真ん中にいちごジャムが入っている、デパートとかで売ってるちょっと高級なやつ。
だけど、そのクッキー以上にゆかはりえが「食べたい」って言ったことの方に驚いた。
だって食べることって怖いんだから。
ゆかは「美味しそう」って笑って言ったけれど、本当は自分も食べるのはとてつもなく怖かった。
いつもちょっとしたことで「悪いスイッチ」が入ってしまって、過食をしてしまうから。
そんな惨めな姿をりえには絶対に見られたくなかった。
「私、お菓子食べるの久しぶりだな」
そう独り言のように呟きながら、りえがお皿の上にクッキーを広げていくのを、隣でゆかは思わず真剣な眼差しで見つめてしまう。
「ゆかちゃんも遠慮しないで食べてね」と言いながら、りえがクッキーを口に運んだのを見て、ゆかも1枚手にした。
「りえ、ありがとう。すっごく美味しい」
友だちと食べるクッキーは甘くて、美味しくて、いつもの悪いスイッチは・・・・・・入らなかった。
イライラも、ソワソワもいつも沸き起こってくるあの嫌な感覚も、そんなの何もなくて、クッキーは本当に心から美味しかった。
「ゆかちゃん、あのね話があるんだけど」
話ってなんだろう、ゆかは突然のりえの発言に胸の奥がザワザワしけれど、冷静を装って聞いた。
「なに? どうしたの?」
「私ねもう1度学校に行ってみようと思うの。頑張ってみようって思うの」
ゆかの目を見つめるりえの瞳は透き通っていて、そこには迷いというものが1ミリも感じられなかった。
「私ね、ゆかちゃんと出会って1人じゃないんだって思えたの。学校でまた嫌な思いすることもあるかもしれないけれど、ゆかちゃんがいるって思うと頑張れる気がするの」
そう言うとりえは、もう1枚クッキーを1口で口の中に入れると、ゆかの方を見てにっこりと微笑んだ。
自分も今まで避けていた「学校」と「食べもの」、その2つを今りえは克服しようとしている、その姿を見ると、自分も変わりたいっていう思いが今まで以上にこみ上げてきた。