今回りえが犯してしまった万引きという行為は犯罪で、もちろん許されたわけではないけれど、初犯だったということもあり、その後処分はなく、この日はそのまま家に帰ってもいいということになった。
お店から出てきたりえとりえのお母さんは、顔色が真っ青になっていて、今にも倒れてしまうのではないかと心配になってしまうほどだった。
お店の出口でりえのことを待っていたゆかの存在に気がついたりえは、目を真っ赤にしてゆかの元へゆっくりと近寄ってきて、そのあと2人で無言のまま当てもなく歩いていたけれど、気が付くと立っていたのはいつもの公園だった。
太陽が沈みかけ、オレンジ色の夕陽に照らされたベンチに、ゆかとりえは静かに腰を下ろした。
長い沈黙だけが続いていて、足元には2人のうっすらとした影が映っていてるのを見ると、今にも消えてしまいそうなりえの姿と重なってしまい胸がぎゅうっと苦しくなる。
長い静寂のあと、意を決してゆかは口を開いた。
「りえ、話してくれる? 何があったのかを」
「ごめんなさい・・・・・・。私、捕まりかったの。警察に捕まったら、お母さんもさすがに私のことを心配してくれるかなって思った。だけど、私、ゆかちゃんに迷惑かけちゃったね・・・・・・」
「迷惑っては思ってないよ。すごい心配はしたけど・・・・・・」
「私ね、学校の友だちに好かれてないの。人間関係があんまりうまくいってなくて。だけどお母さんは毎日仕事で忙しくて誰にも相談できなかった。だから警察に捕まったら、さすがにお母さんも私のこと心配してくれるかなって思って。だから・・・・・・」
りえはまた涙を目一杯に浮かべ、言葉の続きを失った。
だけど、もうこれ以上何も言わなくても、ゆかにはりえが言いたいことは十分伝わった。
自分だって昔、お父さんに性的なことをされてすごく嫌だったし、その嫌な気持ちをお母さんに気がついて欲しくて自分の身体を犠牲にしてまでも心配してもらいたかったから。
だから、りえがこうやって「良くないこと」をしてまでも、お母さんに心配してもらいたかったっていう気持ちは、過去の自分を見ているような気がした。
「あとね、見てわかるかもしれないけれど、私、ごはんが食べられないの。食べたくないの」
まさかりえが自分の口から言い出すとは思ってもいなかった言葉。
「ごはんが食べられない」
それはりえの体型を見れば誰でもすぐにわかることだったけれど、絶対に触れてはならない話題のような気がしていたし、それに「ごはんが食べられない」という意味は違うけれど、感覚としては同じ感情をゆかも毎日抱いていた。
だって自分は過食をしてしまうのだから。
「おーい。何してるんだよ?」
夕陽に照らされるアスファルトの上を軽快に走る人影が、だんだんとゆか達のもとへと近寄ってきた。
目の中に差し込む光が眩しくて、目を細めたゆかは「あ」と呟いた。
さとしさんだった。
仕事帰りなのだろうか、黒のスーツを着ているさとしさんの表情からは、少し疲れが見える。
「こんなところで何してるんだよ?だいぶ暗くなってきてるぞ。家に帰らないと親、心配するだろ?」
何も知らないさとしはいつものトーンでゆかに話しかけてきたけれど、隣のりえに気がついたのか、小さく「どうも」とだけ挨拶を付け加えた。
「ちょっとお喋りしてただけ。この子、りえっていうの。新しくできたお友だち」
ゆかがりえを紹介すると、りえは力のない笑みを浮かべてさとしを見上げた。
「お、よかったじゃん、友だちできて。今度みんなで集まってごはんでもしようよ」
さとしの調子は相変わらずだったけれど、さとしが来てくれたことで、ゆかはなんとなくこの場の張り詰めた空気がとけた気がしてちょっとだけ安心した。
「そろそろ帰ろっか。陽もだいぶ暮れてきたし」
ゆかが立ち上がりりえに手を差し伸べると、りえが「今日は一緒にいてくれてありがとうね」と言いながら、揺れる瞳でゆかを見つめた。
りえにありがとう、と言われるようなことは何もしていない。
ただ、そばにいて話を聞いていただけ。
だけど、そうやってありがとうって友だちに言われることは、ゆかが毎日心の中で抱いていた罪悪感を少しだけ掻き消してくれたような気がした。
お店から出てきたりえとりえのお母さんは、顔色が真っ青になっていて、今にも倒れてしまうのではないかと心配になってしまうほどだった。
お店の出口でりえのことを待っていたゆかの存在に気がついたりえは、目を真っ赤にしてゆかの元へゆっくりと近寄ってきて、そのあと2人で無言のまま当てもなく歩いていたけれど、気が付くと立っていたのはいつもの公園だった。
太陽が沈みかけ、オレンジ色の夕陽に照らされたベンチに、ゆかとりえは静かに腰を下ろした。
長い沈黙だけが続いていて、足元には2人のうっすらとした影が映っていてるのを見ると、今にも消えてしまいそうなりえの姿と重なってしまい胸がぎゅうっと苦しくなる。
長い静寂のあと、意を決してゆかは口を開いた。
「りえ、話してくれる? 何があったのかを」
「ごめんなさい・・・・・・。私、捕まりかったの。警察に捕まったら、お母さんもさすがに私のことを心配してくれるかなって思った。だけど、私、ゆかちゃんに迷惑かけちゃったね・・・・・・」
「迷惑っては思ってないよ。すごい心配はしたけど・・・・・・」
「私ね、学校の友だちに好かれてないの。人間関係があんまりうまくいってなくて。だけどお母さんは毎日仕事で忙しくて誰にも相談できなかった。だから警察に捕まったら、さすがにお母さんも私のこと心配してくれるかなって思って。だから・・・・・・」
りえはまた涙を目一杯に浮かべ、言葉の続きを失った。
だけど、もうこれ以上何も言わなくても、ゆかにはりえが言いたいことは十分伝わった。
自分だって昔、お父さんに性的なことをされてすごく嫌だったし、その嫌な気持ちをお母さんに気がついて欲しくて自分の身体を犠牲にしてまでも心配してもらいたかったから。
だから、りえがこうやって「良くないこと」をしてまでも、お母さんに心配してもらいたかったっていう気持ちは、過去の自分を見ているような気がした。
「あとね、見てわかるかもしれないけれど、私、ごはんが食べられないの。食べたくないの」
まさかりえが自分の口から言い出すとは思ってもいなかった言葉。
「ごはんが食べられない」
それはりえの体型を見れば誰でもすぐにわかることだったけれど、絶対に触れてはならない話題のような気がしていたし、それに「ごはんが食べられない」という意味は違うけれど、感覚としては同じ感情をゆかも毎日抱いていた。
だって自分は過食をしてしまうのだから。
「おーい。何してるんだよ?」
夕陽に照らされるアスファルトの上を軽快に走る人影が、だんだんとゆか達のもとへと近寄ってきた。
目の中に差し込む光が眩しくて、目を細めたゆかは「あ」と呟いた。
さとしさんだった。
仕事帰りなのだろうか、黒のスーツを着ているさとしさんの表情からは、少し疲れが見える。
「こんなところで何してるんだよ?だいぶ暗くなってきてるぞ。家に帰らないと親、心配するだろ?」
何も知らないさとしはいつものトーンでゆかに話しかけてきたけれど、隣のりえに気がついたのか、小さく「どうも」とだけ挨拶を付け加えた。
「ちょっとお喋りしてただけ。この子、りえっていうの。新しくできたお友だち」
ゆかがりえを紹介すると、りえは力のない笑みを浮かべてさとしを見上げた。
「お、よかったじゃん、友だちできて。今度みんなで集まってごはんでもしようよ」
さとしの調子は相変わらずだったけれど、さとしが来てくれたことで、ゆかはなんとなくこの場の張り詰めた空気がとけた気がしてちょっとだけ安心した。
「そろそろ帰ろっか。陽もだいぶ暮れてきたし」
ゆかが立ち上がりりえに手を差し伸べると、りえが「今日は一緒にいてくれてありがとうね」と言いながら、揺れる瞳でゆかを見つめた。
りえにありがとう、と言われるようなことは何もしていない。
ただ、そばにいて話を聞いていただけ。
だけど、そうやってありがとうって友だちに言われることは、ゆかが毎日心の中で抱いていた罪悪感を少しだけ掻き消してくれたような気がした。