空は透き通るような青色をしていて、雲が1つとして見当たらない。

なんて気持ちがいい日なのだろう、とゆかは背伸びをしながら公園の入り口を抜けた。
 
おじいさんとか、おばあさんが輪になってお喋りをしている姿を見ると、将来自分もあんな老後を送りたいって少し明るい気持ちになることができる。

毎日おばあちゃんに小言を言われることはしんどくて、だけど事実を言われているから仕方がないんだって自分に言い聞かせてはいるけれど、どうしてもへこんでしまう自分はメンタルが弱いのだろうか。
 
 
引きこもっていないで、みんなみたいに学校に行けば済むことなのに。


「あんた、しょっちゅう見かけるね。今日は学校は休みかいね?」


ゆかがいつものベンチに向かおうとしていると、突然ジャージ姿のおじいさんに話しかけられた。

いかにもウォーキングでもするような、そんな服装をしている。

まさか自分が「しょっちゅう」このおじいさんに見られているなんて思ってもいなかったから、ゆかは戸惑ってその場にかたまった。


「あ、はい。今日はお休みで。振替休日なんです」


咄嗟についた嘘はなんて陳腐なものだろう、と思ったけれど、他に思いつかなかったから、そうするしかなかった。

せっかく気楽にこれると思っていた公園でまでも、まさか鎧を被って過ごさないといけないのか。

なんだか急に、晴れていた心がずしんと沈んでしまう。


「最近の若者は休みが多くていいな。わしが学生だった頃は毎日勉強と部活が忙しくて、休みなんかなかったんだぞ。みんな必死だったからな」


おじいさんは悪気なく言っているのかもしれないけれど、今のゆかには軽蔑されているように感じて、早くこの場を離れたくなる。


「私も勉強頑張りますね。ありがとうございます」


ゆかの顔は引き攣っていたけれど、精一杯の明るい声で返事をすると、おじいさんの前を横切って立ち去った。


もうこれ以上、私に何も話しかけてこないで、って思いながら。

 
清々しい気分だったはずなのに、なんだか一気に気落ちして、家の中に引きこもりたくなる。

こうやって人から逃げているのが良くないんだろうなっては自覚しているけれど、どうしても人と関わることを避けてしまう。

おばあちゃんに言われる言葉が世の中の意見のような気がして、早くこの世から消えてしまいたい衝動に駆られるけれど、死ぬ勇気もないから、ダラダラと生き続けてしまう自分なんて迷惑な存在なんだろうなって思うと、その思考が頭から離れない。

いつものベンチに来るだけだったはずなのに、今日はずいぶんと遠回りをした気がして、ぐったりとベンチに座り込む。

遠くにさっきのおじいさんが別の男性に話しかけているのが見えて、単におしゃべり好きな人だったんだろうなって思うと、思わず深いため息が出た。 

そよそよと吹く風は、ゆかの頬を撫で、全身の力を吸い取っていくように感じる。

 

ゆかは静かに瞼を閉じて、ゆっくりと眠りに落ちていった。