「毎日家に引きこもってばかりいないで、どこか出掛けて勉強でもしてきたら?」


ご飯を口の周りにペタペタとつけたまま、祖母が冷ややかな視線を送りながら、呆れた口調でゆかに言った。


「そうだよね。うん・・・・・・。何かしないとだよね・・・・・・」


こうやって自分でもわかっていることを、あえて他の人から指摘されてしまうと、胸がきゅうっと苦しくなる。

怠けるな、早く学校に行けって言われているような気がして、この場から消えてしまいたくなるけれど、何もやっていないのは事実だし、逃げる場所もないから結局言われ続けてしまう。


「まぁ、ゆかはゆかなりに頑張っているんだし。動ける時が来たら頑張ると思うから、今はそっとしといてあげましょう」


穏やかな口調だけど、単にゆかに同情しているだけのような母の言葉に、申し訳なさが込み上げてくる。

お母さんも本当は学校に行って欲しいって思っているはず。だけど、それをあえて口にはしない。

母の優しさといえる遠慮が、娘として情けなかった。


「ほら、今日はいいお天気だし少しは外にでも出てみたら? ちょっとは気分転換にもなるかもよ? 外の空気でも吸っておいでよ」


母はニコッと笑い、さりげなく話題を変える。


「そうだね。公園にでもまた行ってみようかな。あの公園、なんとなく私好きなんだよね」


「公園ばっかり行ってないで、もっと現実味のあることをしなさい。公園に行っても、仕事にはならん」


祖母のキツく、尖った言葉で一瞬穏やかな空気に戻った部屋が、しんと静まりかえる。


「自然と触れ合ってリラックスすることも大切なのよ。今日は公園に行く。それでも大きな一歩よ」


母の祖母をなだめるような言葉があまりにも優しくて、ゆかの心が締め付けられる。

 
こんな生活してないで、早く変わらないと。

 
いつもの焦りが頭の中を駆け巡り、思わず下を俯いてしまったけれど、母がゆかを見ているのを感じてゆっくりと母の目をみる。

「大丈夫。ゆからしく、でいいから。ちょっとずつ、ちょっとずつ」

ちょっとずつっていうのが、本当に小さな一歩なんだよなってとても恥ずかしくなるけれど、今のゆかには大きな一歩を踏み出す勇気などなかった。

ありがとうねって言いながらゆかは小さく頷き、穏やかな表情をしている母に、ゆっくりと笑みを浮かべてみせた。