ゆかはお風呂場の鏡に映る自分の胸の膨らみに、なんとなく目がいった。
 
大きいわけでもないけれど、子どもみたいにぺったんこっていうわけでもない。
 
前、テレビかなんかで聞いたことがある。

男性は女性の胸に魅力を感じるんだって。
 

お父さんも私の胸に興味があるのかもしれない。

胸を小さくしたら、毎日の儀式はなくなるかもしれない。
 

そう思った。


それに、痩せ細ってしまったらお母さんが心配して、私のことを気にかけてくれるかもしれない。

今の生活が変わるかもしれない。


そう確信した。
 
最近ちょっとお菓子を食べすぎていたせいで、少し太った気がしていたけれど、よく見ると胸も大きくなった気がする。
 

だったら痩せれば胸も小さくなるかもしれない。
 
痩せれば嫌なことは起こらなくなるかもしれない。
 
食事を減らそう。


「今日の夜ごはんはバイト先の友だちと食べてきたから、もういらない」
 
ゆかは母に嘘をついた。

小さな嘘。これくらいバレないだろうって思ってついた咄嗟の嘘。

「あ、そうなの?じゃあ、明日の朝ごはんにでも食べておいて。冷蔵庫に片付けておくから」
 
母は怪しむ様子は一切なくて、すんなりとそのままの言葉を信じてくれた。
 
なんだ、嘘って案外バレないじゃん、こんなにもうまくいくだなんて思ってもいなかったゆかは驚いたけれど、きっとこれからもうまく誤魔化していける気がした。
 
だけど、本当は何も食べていないから、お腹はとても減っていてキュルキュルと鳴り響いている。

仕方ないから早めに寝逃げしてしまおうって思った。
 
大好きなごはんを我慢するのは辛いけれど、お父さんと儀式をする方がもっと辛いから、やるしか、ない。
 
明日は胸が少しでも小さくなってますように。
 
そう願いながら、とろんとした夢の中に吸い込まれていった。