部屋の中のカーテンがゆらゆらと揺れて、窓から入ってくる風が頬を撫でる。

ゆかは吸い寄せられるように、窓際に行くと電線にスズメが止まっていて気持ちよさそうに鳴いていた。
 
その姿は一生懸命そのもので、自分なんかよりも必死に生きているのが伝わってきて、鳥と比較する自分はかなり病んでいるのではないかと心配になる。
 
スカートのポケットに手を当てた瞬間、あ、と思い出した。
 
チロルチョコレート。
 
さっき女の子がくれたチロルチョコ。
 
わざわざこんな丁寧にお礼なんかしなくてもよかったのに、って思ったけれど、その心遣いはやっぱり嬉しい。
 
ピンクの花柄のベッドの上に寝転んで、チロルチョコを小さくかじってみた。
 
甘くて、懐かしさが詰まった味。
 
だけど、2口でチョコを食べ終わった瞬間、ゆかの心の中が急にザワザワしてベッドから飛び起きた。


いつもの、あれ。
 
よくない、あれ。
 
 
また始まったって思いながら、冷蔵庫のドアを勢いよく開けたけれど、昨日の夜ご飯の残り物の野菜炒めしか残っていない。
 

「こんなので足りるわけないじゃん」
 
 
頭の中に浮かんでくる、あの嫌な考えを振り払おうとするけれど、もういく場所は決まっていた。
 

スーパー。
 

ゆかはチロルチョコを食べたことで、いつものあのスイッチを自ら押してしまったことを、心から後悔した。
 
これから始まる生き地獄のような時間を想像しただけで、目には涙が浮かんでくる。 
 
誰か私を止めてって心の底から願うけれど、そんなの無理だってわかってる。
 

「もう消えてしまいたい。生きていたくない」
 
 
これから始まるであろう、スーパーの入り口で泣いている自分の姿に、ゆかは激しく幻滅した。