「あー、めんどくさいな・・・・・・」
そういえば、あと少しで友達の誕生日だったということを、ゆかは携帯でネットサーフィンをしている時になんとなく思い出した。
友達といっても小学校の頃同じクラスだったっていうだけで、卒業してからはほとんど会ってはいない。
中学校からは別々の学校に行ったから、今はお互いの誕生日の時に「おめでとう」ってLINEでやり取りをするくらいで、それ以上の深い話をすることもなかった。
噂では金髪の彼氏と付き合っていて、ずいぶんと派手になったんだ、とかなんとか。
その話も別の友達からの又聞きで知ったから、詳しいことは何も知らない。
そんな希薄な関係の友達なのに、毎年誕生日プレゼント交換はしているということが、自分でも不思議だなって思う。
やめたくもなるけど、突然贈らなくなるのも気まずい気がして、なんとなくで贈り続けている感じ。
もし将来、会社勤めを始めたら自分はきっとイエスマンになって、上司に意見を言えない人になるんだろうなって容易に想像ができてしまい、今のうちから気が滅入る。
あまり気分は乗らなかったけれど、めんどくさいことは早めに済ませておきたいなって思ったから、今からプレゼントを買いに行くことにした。
日中は人通りも増えてきて、人の視線が怖いからマスクが欠かせない。
「行ってきます」
誰もいない真っ暗な部屋に向かって、小さく挨拶をした。
ゆかは家から10分くらいの場所にある、いつものケーキ屋さんにやってきた。
ここの焼き菓子が美味しくて、誰かに贈り物をする時には、いつもここで買ってしまうくらい。
特にいちじくのパウンドケーキがお気に入り。
お店の中に入るとクッキーを焼いているのかもしれない、甘い香りがふんわりと鼻を抜ける。
「いらっしゃいませ」
いつもいる店員さんが一瞬手を止めて、声をかけてくれた。
ゆかも小さく会釈をする。
「いつもありがとうございます。今日も贈り物か何かですか?」
だけど、こうやって毎回話しかけられるのが、あんまり得意ではない。
「あ、はい」とだけ短く返事をして、お菓子の陳列棚に目をそらした。
新発売って書いてあるレモンピールが入ったマドレーヌに目がとまり、美味しそう、食べたいなって思ったけれど、自分に買ってあげれるほど何も頑張ってないっていういつもの自己否定が始まる。
友達の分だけ1つカゴに入れたけれど、やっぱり本当は食べたかったから、悲しい気持ちになった。
「最近どうですか?」
突然、自分しかいない店内に、明るい声が響き渡った。
「え?」
「今時の学生ってどんな学校生活を送ってるのかなって。よく日中買い物に来てくださるから、学校はどうしてるのかなってちょっと気になって」
学校。
ゆかの胸がギュッと締め付けられる。
今、1番聞きたくない言葉。
避けていたい言葉。
だって、今の自分は学校に行っていないなのだから。
「あ・・・・・・毎日楽しいですよ」
自分でもマスクの下の顔が引き攣っているのがわかる。
こんな拷問のような質問、耐えられない。
私だってこんな嘘をつきたくてついているわけではない。
だけど、学校には行ってないって言ったら、きっと反応に困るだろう。
そんな状況は目に見えている。
だからこうやって笑って嘘をつくしかない。
「それはよかったです。学校生活楽しんでくださいね」
それ以上は何も聞かれなかったけれど、ゆかの心は一気に鉛が入ったかのように重たくなった。
お菓子なんて買いにこなければよかった。
家に帰る途中、マスクがほんのりと湿っていることに気がついた。
必死に強がっていたつもりだけど、もう無理だっていうことに気がついてしまうと、今までこらえていたものが一気に溢れ出してきて、涙が止まらない。
悔しくて、悲しくて、どうしようもなく苦しい。
ゆかは洋服の袖で目をおさえながら、早歩きで家に向かった。
そういえば、あと少しで友達の誕生日だったということを、ゆかは携帯でネットサーフィンをしている時になんとなく思い出した。
友達といっても小学校の頃同じクラスだったっていうだけで、卒業してからはほとんど会ってはいない。
中学校からは別々の学校に行ったから、今はお互いの誕生日の時に「おめでとう」ってLINEでやり取りをするくらいで、それ以上の深い話をすることもなかった。
噂では金髪の彼氏と付き合っていて、ずいぶんと派手になったんだ、とかなんとか。
その話も別の友達からの又聞きで知ったから、詳しいことは何も知らない。
そんな希薄な関係の友達なのに、毎年誕生日プレゼント交換はしているということが、自分でも不思議だなって思う。
やめたくもなるけど、突然贈らなくなるのも気まずい気がして、なんとなくで贈り続けている感じ。
もし将来、会社勤めを始めたら自分はきっとイエスマンになって、上司に意見を言えない人になるんだろうなって容易に想像ができてしまい、今のうちから気が滅入る。
あまり気分は乗らなかったけれど、めんどくさいことは早めに済ませておきたいなって思ったから、今からプレゼントを買いに行くことにした。
日中は人通りも増えてきて、人の視線が怖いからマスクが欠かせない。
「行ってきます」
誰もいない真っ暗な部屋に向かって、小さく挨拶をした。
ゆかは家から10分くらいの場所にある、いつものケーキ屋さんにやってきた。
ここの焼き菓子が美味しくて、誰かに贈り物をする時には、いつもここで買ってしまうくらい。
特にいちじくのパウンドケーキがお気に入り。
お店の中に入るとクッキーを焼いているのかもしれない、甘い香りがふんわりと鼻を抜ける。
「いらっしゃいませ」
いつもいる店員さんが一瞬手を止めて、声をかけてくれた。
ゆかも小さく会釈をする。
「いつもありがとうございます。今日も贈り物か何かですか?」
だけど、こうやって毎回話しかけられるのが、あんまり得意ではない。
「あ、はい」とだけ短く返事をして、お菓子の陳列棚に目をそらした。
新発売って書いてあるレモンピールが入ったマドレーヌに目がとまり、美味しそう、食べたいなって思ったけれど、自分に買ってあげれるほど何も頑張ってないっていういつもの自己否定が始まる。
友達の分だけ1つカゴに入れたけれど、やっぱり本当は食べたかったから、悲しい気持ちになった。
「最近どうですか?」
突然、自分しかいない店内に、明るい声が響き渡った。
「え?」
「今時の学生ってどんな学校生活を送ってるのかなって。よく日中買い物に来てくださるから、学校はどうしてるのかなってちょっと気になって」
学校。
ゆかの胸がギュッと締め付けられる。
今、1番聞きたくない言葉。
避けていたい言葉。
だって、今の自分は学校に行っていないなのだから。
「あ・・・・・・毎日楽しいですよ」
自分でもマスクの下の顔が引き攣っているのがわかる。
こんな拷問のような質問、耐えられない。
私だってこんな嘘をつきたくてついているわけではない。
だけど、学校には行ってないって言ったら、きっと反応に困るだろう。
そんな状況は目に見えている。
だからこうやって笑って嘘をつくしかない。
「それはよかったです。学校生活楽しんでくださいね」
それ以上は何も聞かれなかったけれど、ゆかの心は一気に鉛が入ったかのように重たくなった。
お菓子なんて買いにこなければよかった。
家に帰る途中、マスクがほんのりと湿っていることに気がついた。
必死に強がっていたつもりだけど、もう無理だっていうことに気がついてしまうと、今までこらえていたものが一気に溢れ出してきて、涙が止まらない。
悔しくて、悲しくて、どうしようもなく苦しい。
ゆかは洋服の袖で目をおさえながら、早歩きで家に向かった。