リオンちゃんが、驚いたような顔をしてこちらを見ている。そして、複雑な顔になり、ゆっくりと口を開く。
「…あたしは、なつのことを散々裏切った、嫌なやつだよ?」
「それはカラスくんだよ!リオンちゃんと、私は友達になりたい!」
リオンちゃんと、友達になりたい。私は、ただまっすぐにそう思っている。

『ねぇ、あんた大丈夫?』
カラスくんのことを知ったのは、入学式の三日後くらいだった。何もない所で一人でつまずいた私を、カラスくんは色んな意味で心配してくれた。それから運のいいことに一年二年共に同じクラスで、仲良くなっていった。
私はエンカレが居場所だった。なので、エンカレを始めてからは、現実に友達が一人もいなかった。
もう友達の作り方を忘れていた時に、君が来た。
カラスくんといる時は、なんだか現実が好きだった。エンカレのように、カラスくんとの時間は現実に没頭できた。
思い返せば、私はカラスくんと出会った時から、現実に興味を持ったのだと思う。
きっと、カラスくんと出会った瞬間から、もう私の居場所はできあがっていたのかもしれない。
カラスくんのことだけじゃなくて、現実を見ようとできるくらいの心のゆとりがあったということは、私が今の居場所に満足していたから。
エンカレじゃなくて、現実を覗いてみようとしていたから。
それはもうとっくに、現実が好きになっていたからだ。

カラスくんとして私の前に現れてくれたリオンちゃんがいたから、いつの間にか、「エンカレ」よりも「現実」の方が好きになれていたんだ。

「リオンちゃん、カラスくんなんて、もういいから」
「え…」
「私と、お友達になってください」
友達の作り方って、こんなんだったっけ。でも、そんなのどうでもいい。
から破りなのが、私たちの生き方だ。
さっき発した言葉に、付け加えたい言葉がある。あわよくば、でいいから。
「それから、私の居場所になってください」
自分でも思えるほど情けない言葉だけれど、リオンちゃんなら、受け止めてくれる。
大好きなカラスくんには裏切られたけれど。
リオンちゃんと共に、また一つから、積み上げていったら。
私たちの世界と私たちの現実が、造れるのかも。
そんなポジティブ思考に、私は今包まれている。
今、このひと時だけかもしれない。だけど。
「…うん。あたしも、なつと友達になりたい」
今のこのポジティブ思考(わたし)に、裏切りなんて効かない。
そんなことを思った、高校二年生のとある夏の日。