まるで、女の子のような声で。
「かっこよく決まると思ったのにぃ、ばれちゃったよ」
「え?カラスくん?ふざけてるの?女子の真似?」
私は、エンカレのAI疑惑なんかよりも、今はカラスくんの方が気になってしまっている。
カラスくんは、目黒リオンくんなのに。
「女子の真似っていうか、あたしほんとは女子だもん」
カラスくんがぽとりと何事もないように発言したその言葉は、最大の裏切りと言えるだろう。
「な、なんで、お、男の子なんじゃ、」
「あー、じゃあ説明するね。ばれた時、もうこれは修正効かないなって思ったから笑っちゃった。落ち着いて聞いてよ?」
落ち着いて聞いてよって、落ち着いて聞ける人がこの世のどこにいるのか知りたいよ、カラスくん。
カラスくんの表情が少し曇っていた。その理由はどうしてなのか。
「あたしさ、ほんとに普通の女子なんだよ。だけどあたしの普通っていうのは、ほんとに普通なの。なんでもだよ?勉強も運動も、顔も髪型も性格も。食べればそれなりにちゃんと太るし、髪の毛だってちゃんと朝セットしなきゃ昼間おかしいことになる。全部当たり前なんだよね、普通過ぎてつまんないの。自分が。目黒リオンが」
「だって、カラスくんはすごい優しくて…」
「それはカラスくんでしょ!?あたしがなつに振り向いてほしくて作った、仮の自分でしょ!?あたし自身を見たって、カラスくんが幻滅するだけだよ…」

カラスくんが、苦しそうな顔をして言う。
「あたしは、普通すぎて自分に自信がなかった。なつに、このまま普通の自分で話しかけに行くのが、なんか怖くて。だから、あたしは決めたんだよ。せめてなつといる時は、カラスくんとして生きようって」
「クラスのみんなは、そのことを知ってるの…?」
「みんな共犯。あたしが女の子だってばれないように、みんな必死で隠してくれてた。みんなが優しかったから、カラスくんでいられたけど、もうなつが思うあたしはいない。相当な厚さの着ぐるみ着てたって思わない?」
カラスくんは、もういないんだよ。そう言っているようなカラスくんの瞳から、どうしても目を逸らせない。
「…ごめんね、なつ。もう、こんな裏切り者に関わらなくていいよ。じゃあね」
「またね」という言葉がないことに、私は胸が締め付けられるような感じがした。
そして私は、全身全霊で叫んだ。こんな私の見る大嫌いな現実(リアル)を、全てぶち壊すように。
ポジティブ思考が、行動を追い越していくように。
「…っリオンちゃん!!!」
「…もういいよ、なつ」
「私と、友達になってよ!!!リオンちゃんが(・・・・・・)、私はいいんだよ!!!」