川に着くと、まだ誰もいなかった。
私はあんこのリードを握りしめて、どっちから来るかもわからない長谷部海音を待っていた。
「陽愛さん。」
来た。
私は一つ息を吸って、吐いて、後ろを振り返った。
「……っ!」
思わず息を呑んだ。
「俺告白したんだけどフラれたからさ。告白の返事しようと思って。」
そこにいたのは、私が告白した本人だった。
ただいつもと違うのは、足元にしば犬の小夏がいないこと。
私がずっと好きだった、彼だった。
「あなた、長谷部海音だったんだね…。」
「うん。知らなかった?」
「知らないよ…。知らないよ。だって私だって言ってないでしょ…?」
「そうだね。」
「なんで私の名前知ってるの…?」
「陽愛さんのお姉さんがバイト先一緒でさ。いつもうちの陽愛が陽愛がって妹自慢するから写真ないんですかって言ったら見せてくれたんだよね。びっくりしたよ。世界って狭いんだなと思ったよ。で、俺知り合いです。その子のこと好きで告白したいんですけど…って言ったらメールアドレス教えてくれた。」
「お姉ちゃん人の個人情報勝手に漏らすんだから…。」
あえていつも通りにため息をついてみせた。
「でも俺は陽愛さんのお姉さんに感謝してるよ?告白できたし。」
「フラれたけど?」
「でも俺は陽愛さんのことフッてないから。」
「じゃあ告白の返事してくれるの?」
「うん。」
ザァッーーーーーーー
不意に強い風が河川岸を吹き抜けた。
気づけば雲の間からうっすらと太陽光が差していた。
「好きです。付き合ってください。」
「はい。お願いします。」